錆び付いた鉄を流し込んだような夕暮れの街を歩いていた。錆び付いているのは他でもない私の心なのだろう、空をぐいっと見上げると、ミシリミシリと脊髄が軋む様な音がする。ああ、心以外にも錆び付くものがあるのだな、と痛む首を前に向き直した。理科の授業だったか錆ると鉄は重くなるのだと習った気がする。酸化鉄。というやつだ。私の体は酸素を吸い続けどんどん重くなるのだろうか。この空は酸素を取り込みすぎてどんどん重くなるのだろうか。そして地上に落ちて来る。まあ、それは杞憂だとしても、次の休みには整形外科にかかるべきだろうな。もし、私が純金の様な人間だったなら錆び付くこともなかったろうに、私は、ふと薬指にある唯一の純金に嫉妬をした。それは誇らしげに重たく鈍い光を反射していた。さて錆ることのない銀婚式には何を陛下に献上すべきか。
- ナノ -