思い返せば、いつだって雨の日でその建物の外からながめていた。建物は洋館のような、何か施設のような不思議な建物で、俺はそこに入らなければならないことを酷く躊躇していた。何故って、まわりは鉄格子で覆われていて錆び付いた門が半開きになってこちらを手招きしているようで、相当に薄気味悪く、立往生していた。もう何回ここに来ただろう、あと何回ここにくるんだろうか。相変わらず雨はしとしととジャケットの肩を濡らしてとても煩わしい。空は人の心を写す、否、人の心が空に左右されるのだ。だから俺は雨だから中には入れないんだ。晴れだったら中に入れるんだ。俺のせいじゃない。強く握り締めた履歴書はまた書き直さなければならないし、なんにせよ雨で濡れてしまっている。こんな物を提出しようものなら即不採用だ。雨が良くない。晴れの日に来よう。次の晴れの日はまず新しい履歴書を買わなければならないし、なによりも新しく書き直さねばならない。その次の晴れの日はいつだろうか、新聞を買わなければ。新聞だって晴れの日に買わなければ他の欄が湿ついて見れなくなってしまうじゃないか、ではその晴れの日は新聞を買おう。しまったしばらくしたら日雇いの面接があるのだ即日採用なので、天気は関係ないだろう。ピシャリと雨靴の泥が跳ねる。泥だってはみ出す奴がいるもんだ。ふと、目に雨水が入ったのか視界がぼやけた。俯いていたというのに、おかしな話なのだ。
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