珍しいですね、黒い水風船なんて。彼がそう言って指差したさきには確かに黒い水風船があった。子供のいたずらなのか公園の木の枝に十個位のそれが実のようにぶら下がっている。近くで見てみましょう。私は大して興味は無かったが、彼は私の返事を待たずにベンチを離れて木に近づいていくのでそれにつづく。間近で観察すると風船の表面には金色の小さな星柄の模様がプリントされていて案外可愛らしいな、と思った。ああ、なるほど。これは宇宙なのですね。彼は楽しそうに手の届く高さにある水風船をつつく。また突拍子の無いことを言い出したものだと若干呆れたが、まあ彼が楽しそうなので良しとしよう。ねえ、貴女も聞いたことありませんか?宇宙は風船のようなものだと、どんどん膨らんでいって、星の位置は段々と遠くなる。そしてやがては萎んでいき、最後には。どうなるんですかね、爆発して新しい宇宙が生まれると言われていますが、私には理解できません。萎んでから爆発するなんて。貴女は知ってますか?彼がつつき過ぎたのか黒い水風船はぱしゃんと割れてしまい中の水が私たちにかかってしまった。ちなみにこの瞬間にこれが黒い水風船ではなくて黒い墨の入った透明な水風船であったことが判明し、白いおろしたてのワンピースが汚れ、私の怒りを爆発させた。いやいや、まったく、おっかないビックバンですねぇ、と彼が楽しそうに笑っていたので、まあ良しと。しない。
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