黒い猫は私を見ていた。就職活動で出掛ける矢先にそれを見てしまったので、何だか不吉で嫌だなあ。と迷信ながらも思ってしまった。本日の面接会場は自宅から少々離れた都内のビジネスビルで行われるため最寄り駅へ歩いて向かっている。だが、私はなぜどうして、先程の黒い猫の事が気になってしまってぼんやりと心在らずで歩いていた。キキキキッ、と急ブレーキを踏む音ではと我にかえった。信号のない交差点、私まで後、僅かというところで車が止まっていた。危ない。黒い猫のことなぞ考えていたからだ。運転手に深く頭を下げてその場を後にした。やはり、今日の面接も落ちるのではないか、疑心暗鬼になって落ち込んでいると先程の交差点から小さく悲鳴が聞こえた。何だと振り返ると運転手が車体の下を覗いていた。影だったのでよく見えはしなかったが黒い何かであることの見当がつく。あれが轢かれたお陰であの車は止まったのかもしれない。案外、今日は運がいいのだろうか。

その日から黒い猫も見ていない。やはり運がいい。
送られた内定通知を私は空に広げて見せた。誰に見せているかは分かって欲しい。
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