あそこの大屋敷の旦那様ったら色町の娘に夢中で全然家に帰ってきやしないのよ。奥さんはさ、体の弱い方だったでしょお?御自分も間男でもいりゃいいけどさ、体が弱いしそういう体たらくも働けないわけでね。たまあに、ここいらに来る風鈴売りの娘さん、ほら、髪をおさげにして赤い麻紐で結んでる。割かし可愛らしい子よ。その子と話をするのが唯一の楽しみだったんだよねえ。あそこも金には不自由してないからさあ、話だけじゃ、なんだっていうんで来るたんびに一つ風鈴も買ってやるらしいんだよ。でもねぇ。御屋敷に風鈴、飾ってある処。あたしゃ見たことないんだよねぇ。気になるのはさ、聞こえるのよ。パリーン、ガシャンって音が。分からないよねぇ。風鈴を買う口実なのか。その子の髪の赤い麻紐が旦那様の財布飾りの紐と同じだったからなのか。赤い紐なんてどこにだって売ってるだろうさ!
- ナノ -