かゆいのよ。と彼女はいう。その白い腕には無数の引っ掻き傷があって、かさぶたになっているものやただれているものがある。腐った馬鈴薯のようでしょ。と彼女はいう。腐った馬鈴薯を見たことがないので肯定しかねた。すんすんと傷口から独特の臭いがする。血でもなく、汗でもなく。あれは一体なんの匂いなのだろう。私はこの臭いがが好きなのよ。と彼女はいう。理由は分からないが同意する。ついつい意味もなく嗅ぎたくなる臭いであることは確かだ。私たちはきっと生前肉食獣だったのだわ。と彼女はいう。なるほど傷を負った獲物を感知しやすいようにということか。ぺろりと舌で彼女の傷を舐めた。美味しいかしら?と彼女はいう。味は好みではないねと僕は返した。彼女はいう。うまい不味いで捕食するのは男だけよ。じゃあ女は?と尋ねたら、自分が美味しくなるような物を食べるのよ。と言った。なるほど、まだ彼女を食べるのは早いようだ。でも早くしないと賞味期限切れるんじゃないの?
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