俺の名前はパブロフの犬。主人殿に絶対の忠誠を誓う犬である。高慢ちきなシュレッティンガーの猫とは違い、謙虚さと誠実を常としている。主人殿は俺の飯時になるとベルをならす。そりゃあ俺だって腹が減ってるときに目の前に飯があれば、情けなくも唾液が出る。主人殿がよしとするまで手をつけないのが忠犬というものだ。ある日、主人殿はいつものようにベルを鳴らした。俺はいつも通り飯にありつけるものだと思い主人殿の足元に座る。ところがなぜか飯の用意はされていない。腹が減ってしょうがない状況なので。少し戸惑いながら、主人殿を見上げる。その恰幅のよいお体はさぞかし脂がのっていて美味いのだろうなと、ついつい唾液を垂らしてしまう。腹が減っているからしょうがないのだ。俺は忠犬であるから主人殿を襲って食べたりはしないのだ。断じてしないのだ。主人殿がよしとするまで手をつけないのだ。俺の姿を見て主人殿は満足そうに口を開いた「よしよし、ベルを鳴らしただけで唾液が出たぞ、よしよし。」その言葉を聞いて俺も口を大きく開いた。よしと言われたら食べる。それが忠犬というものだろう?勿論、肉の一欠片足りとも残さんよ。
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