明け方のことだった。赤ん坊の泣き声がする。甲高い声であーん、あーんと泣いている。このあたりには僕以外の人は殆ど住んでいないのに。少し嫌な予感がして外に出た。誰かが置き去りにしていった赤ん坊のがいるかもしれない。腐りきった世の中だ。ありえない事じゃない。まだ朝焼けの残る薄明かるい外を徘徊する。違う理由で徘徊している。老人を横目でとらえつ。家の付近をぐるりと回って戻ってきた。まだあーん、あーんと泣いている。どこにいるのだ?来た道を振り返ると先程すれ違った老人がニヤニヤと家と家の間を覗いている。気味が悪い。頭がもうおかしいのだろう。関わりたくはなかったがなにを見ているのか気になって仕方がない。老人の背後から気がつかれないよう覗き込む、一匹の雌猫があーん、あーんと鳴いていた。何だ猫の盛る声であったか。ほっとしていると老人が雌猫の真似をしてあーん、あーんと鳴き出した。どっちにしたって気味が悪い。夜中に赤ん坊が外で泣いていたとしても、老人があーん、あーんと啼いていたとしても。好奇の眼差しでそれをじろじろと食い入るように観察し、侮蔑している、僕も。

盛って尻を突き出す雌猫だけがその場で最も正常な生き物であった。
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