小さい頃の事をあまり覚えてはいないのだけれど、どうにもひとつ、これだけは印象に残っている事がある。小学校の頃の美術の時間だった。白い画用紙を一枚渡されて「自分が一番綺麗だと思うものを描きなさい。」と言われた。友達や周りの子は花や、空、海なんかを描いていたと思う。でも私は綺麗なものと言われて何を書いていいのかとても悩んでしまって、結局何も描かず、白い画用紙のまま提出してしまった。怒られるだろうなあ、と考えていると「そうか!君は何も手を加えない白紙のままが一番綺麗というわけだな!素晴らしい!!」と、先生は褒めてくれた。芸術ってよく分からないなあとその時思った。さて、私は今、女優なんていう、ハイカラな職業に就いている。そこそこ人気があるようで有難い限りだ。テレビ局ですれ違った芸人の方に「今日もお綺麗ですね〜。」と声をかけられた。ありがとうと礼を言って、楽屋の鏡で自分の顔を見る。あの時の先生が見たらきっと「汚い、美しくない」と言われるに違いない。こんなにも化粧という絵の具を塗りたくり、キャンバスの形に至っては元の形とは大分違う。その日の仕事は私のお世話になった人達に会いに行くというもので、あの先生にも会いに行くのだ。小学校についくと先生が待っていた。先生は開口一番、叫んだ「こんなに綺麗になるなんて思ってなかった!」
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