三つの選ばれた命は、救われてもいなければ、ないがしろにされているわけでもなく、ただそこにいた。赤いものは少しばかり元気がいい。白い斑点模様のものにちょっかいを出しては、逆につつかれていた。もう一つの藍黒いものはなんの干渉もうけず、緩やかな水流に身を任せ、ときたま申し訳程度に水草を食んでいた。幼い少女にはそれがなんなのかわからなかったのだろう、だからひっくり返してみれば、きっと世界はばらけて大きく見えるに違いない。おもちゃ箱をひっくり返せば何が入っているのかわかるから。そういう話だ。これぽっちも不思議な話ではないのだ。赤は跳ね、白斑点は衝撃に耐えられず口から言及し難い溶液を吐き出していた。藍黒いあいつがいない。少女はそれだけはわかった。それだけがこの世界で自分が知るべき情報だということがわかった。置いていかれた赤は最後に見たくもない青空を見上げた。肩からタオルをかける老人の姿がそこにある。農作業でもしてきたのだろうか。ぱたぱたと仰いでいる団扇・・・・いや正しくは違うのだろうが自分の知識のなかで表現できるのはそれだけだ。老人は、オテンバムスメダンナァ、というとスコップで土をかいて白斑点のやつを埋めた。赤は突然の友人との別れに何の挨拶もできなかったことを後悔した。こんなことならば、素敵な裾ですね、などといっぱしに口説いて見せればよかったのかもしれない。赤は老人のやたらと熱い手にのせられて、前とは別のなにか薄い食器にのせられた。しばらくの安住の地となるだろうか。そういえば、少女が追いかけていった藍黒はどうなった。見当たらない。願わくばまた再開したいものだ。おや、こんなところに鳥居でも建てるつもりなのだろうか。赤い赤い筒が見える。それが赤を掴んだ時にはもうなにもかもが赤にはわかっていた。少しばかりの栄養は、この病にふした老婆への慰みとなるのか。塩分が高い、しおしおと自分の体がしぼんでいく。サッサトクタバッテヤァクレンカネェ!先ほどの老人が叫んでいる。ああ、無情なことよこの言葉は赤にではなくこの老婆に向けられているのか。藍黒は少女を引き連れて小さな洞穴にたどり着いた。藍黒は他の二つとは違うところでうまれ、違うものをもっている。足だ。ひたひたひたとそれなりに素早い速度、くねくねとうねる蛇行作戦。どちらも少女から逃げようとするものではあったがそれは及びはしないお粗末なものであった。仕方がないくるがいい。洞穴に少女を案内した。少女は英国の童話の少女にはなれなかった。地下に、ただ地下に、その身は今もある。
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