蓮の花があまりに見事であったから、水面に手を伸ばした。夏の池とは思えないほどに冷たく、心地よく、ついつい肘の辺りまでどっぷりと浸かってしまったわけである。今私はこの蓮の花たちと同じ感覚を共有しているのだ。すいすいとアメンボが私の腕の近くで泳ぎを止めた。花とは違う人間の体温を感じて警戒態勢をとったのだろう。さて、私がここで思うに、私の共有している感覚は蓮の花と同じものだろうか、それともこのアメンボと同じものだろうか。どちらも同じ筈であるのに、申し訳ないがアメンボ氏には御退場願いたい。蓮の花よ、どうして葉を揺らす。やめろやめろ、目が回る。深い深い池の底へ飲まれてしまう。お前の醜い球根等は見たくない。おいおい、誰だここに案山子をぶち込んだのは。
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