私、いや、誰しもが一度は空を飛んでみたいと思ってみたいと思ったことがあるはずだ。五月の蒼天を舞う雲雀を見つめては、よくため息をついて大地から逃れられない身の程を知る。ある時、私は夢を見た。真っ暗な洋風の室内に円卓があり、十二の席に人間が座っていて、何故か顔には鳥の頭の写真を切り取った仮面を被っていて、表情をうかがい知れることはできない。私は一番奥の、現実世界で言う上座の人物に声をかけられた。君は鳥になりたいかね?と問われ、私はいいえと答える。私は鳥になりたいのではなく、空を飛びたいのだ。そう告げると、では君に鳥の翼を授けよう、上座の人物は傍らに置いてあった空のワイングラスを口元(鳥の写真の嘴付近)に持っていくとどろどろとした橙色の粘液を吐き出した。そのグラスは円卓の人物たちに順々に渡っていく。その際も、漏れることなく、色は様々であったが、各々の粘液を吐き出し、ワイングラスは虹色の層をなした。恐らく層になるということは濃度が違うのだろう。最後に私の手元にグラスが回ってきた。どうすればいいのか分からなかったが、そこで夢は終わる。布団から起き上がると、背中に妙な感覚を覚えた。目視はできないものの、確かに羽の感覚があるではないか。私はすぐさまに部屋の窓を開けた。当時4階のマンションに家族で暮らしていたので、飛び立つ高さとしては申し分ない。窓の柵に足をかけ思い切り蹴り上げた。さて、この後、私はどうなったとお考えか。ヒントを差し上げよう。私は美しい虹を見た。今も見続けている。
- ナノ -