わたくし、皆様からはシュレッティンガーの猫と呼ばれております。たまにツヴァイトなんたらという固い響きの音で呼ばれている日も御座いますわ。さてさて、今日もわたくしを御世話してくださっている博士から御仕事を任されました。自分で言うのも野暮ですけれど、其処らのスラムで腐ったザワークラフトを漁っておいでのような方たちとは、格が違いますので、高尚な研究にもお力添えができますの。博士が協力してほしいと仰いますから、まあいいですわよとお答えしました。いつもと同じ様に暗い、全く明かりのささぬ場所に入ります。目には見えませんが、外からの匂いが二通り致しますので、きっと二つの穴が外と通じているのでしょうね。いつも博士はわたくしに御仕事を頼まれるときに皺の寄ったお顔をこれまたくしゃくしゃになさるのです。それは笑っているのか哀しんでいるのか何度見ても判断に悩む表情でした。ええ、ええ、存じておりますよ。わたくしは博士の猫なのです。シュレッティンガーなどという。どこの誰とも知らぬ方の猫では御座いませんの。ですから
。どうか。わたくしを二分の一、"生きている"と証明してくださいませね。

御仕事を終え、わたくしがあの空間から飛び出すと博士はお顔をくしゃくしゃになさいました。やはり笑っているのか哀しんでいるのか分かりませんでした。

博士はわたくしを抱き上げて涙を流しました。すまない、すまない。よかった。と繰り返す声は震えていらっしゃいます。

ああ、理解致しました。博士は哀しかったのですわね。
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