自宅から徒歩10分程度の商店街へ昼飯を食べに足を運ぶと、一軒のスペースが潰されて無くなっていた。それまではそこにあった物が無くなっているというのに私はどうしてもそこの場所に何があったのか思い出せず、頭を捻る。花屋だったか、雑貨屋だったか、兎に角、あまり自分には接点のない店であったと思う。周りを歩く人々も全くその場所に関心を示さずに、通り過ぎていく。関心を向けて居るのは、今この時点では私だけの様な気がする。まぁ、覚えがないくらいの店であったから潰れてしまったんだろうと。その場所を後にしようとした矢先、小学校低学年位の少年が母親の手を握りしめその場に止まった。少年は何かを右手に握りしめて居るようだった。少年は母親に、「お店無くなちゃったんだね。」とうなだれて手に持っていた物を見つめるどうやら小さな紙切れのようだ。「もう一つ、貰えると思ったのに。」そう言い残すと、母親に手を引かれ大通りの先へ去っていってしまった。もうひとつ、紙切れ。このキーワードで思い出した。そうだ、ここには古い駄菓子屋があったのだ。私も小さい頃はよくお世話になっていた。年齢を重ね、店に遠ざかるうちにその存在すら忘れてしまっていたのだ。当時の店の主は、既に恒例のお婆さんであったから、もしかすると、亡くなられたのかもしれない。びゅっと強い風が吹き込んできて私の頬に何かが貼り付く取ってみれば、薄い紙に「あたり」と書いてあった。先程の少年の物ではないだろうか。走って少年の後を追いかけ、「これ、落としたんじゃないかい?」と尋ねれば、「要らないから捨てた。」と言い残し少し訝しげな顔つきで私を見る母親と共に、近くのコンビニへ入っていってしまった。失われたものは、店だけでは無かったのかもしれない。一人臍を噛み、「あたり」の紙切れをそっと財布の中に閉まった。それはどこか私にとって御守りの様でもあり、何処かへ置き忘れた何かの様でもあった。
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