その縄は突如として、口の奥、食道の方から、這い出てきた。私はずるずるとその縄を引っ張って、何とか、取り出そうとするのだが、一体どうして、その縄は一向にその尾を覗かせない。口から引っ張り出すたびに、縄のささくれだった部分が喉にざらざらとした感触を残し、非常に不愉快だ。ささくれた縄の千切た屑が段々と口の中に溜まるので、唾液と共に一定の間隔で吐き出す。吐き出す瞬間にズルリと縄が喉の収縮に合わせて奥へと戻ろうとするので、私は縄を引っ張りつつ、縄屑を吐き出さなければならなかった。3mほど引きずり出してみても縄はまだまだ引き出せる。いい加減に終わらせないと頭がおかしくなりそうだ。しかし何故、私の口から縄が這い出てきたのか、口の中から縄をぶら下げたまま、考察してみることにした。便利なことに呼吸には不自由しないのでベランダに腰掛けたまま空を見上げる、目がくらむ位の晴天だ。暖かいというよりはむしろ暑いぐらいで、こうしている間にも汗がとめどなく流れる。さて、考察を始めよう。まず、当たり前だが、私はこんな長さの縄を飲み込んだ覚えはない。では、どこかにある縄が私の喉を通して繋がっているのだろうか?そうなると若干困ったことになる。縄の先端に岩でも結び付けられていたらどうなる。とてもそれを吐き出せるだけの口の大きさは持ち合わせていない。そうでないことを祈りながら、当てのない考察を止め引きずり出すことを再開した。小一時間経っただろうか。ごぽっと喉の奥から縄では無い何かの感触を覚える。ようやくこの格闘も終了するのかと、思いっきり力を込めて引っ張り出した。卵。そういう他の表現が見当たらない。有精卵か無精卵かの区別はつけられなかったが、腹いせに卵を叩き割った。中からはまだ形を成し始めたばかりのカナリアが横たわっていた。羽化していたら私の声は美しく、可愛らしいものになっていたかもしれないと少し残念に思う。さてさて5mほどのこの縄どうしてくれようか、ちょうど台風が近づいていることだし、外に放置してある原付と、自転車をガス管に結びつけるのにでも使ってやろう。ああ、喉が渇いた。私は食物繊維入りのノンカロリーのスポーツドリンクを飲み干した。食物繊維。まさかね。
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