猫は孤独で御座いました。

猫にしては珍しく一匹だけ母猫の腹から産まれました。子猫の頃は母猫に可愛がられすくすくと育ちました。母猫にしても子供はこの猫一匹だけでしたのでそれはそれは愛情をかけて育てました。猫も大人になり、母猫から離れた場所で縄張りを持ち、暮らしておりました。

猫は孤独で御座いました。

孤独でも猫はなかなか狩りに優れていたので食いぶちに困ることはありませんでした。ただなぜでしょう、人間からいわれのない虐待をうけることが御座いました。猫は非常に賢く、また穏やかな性格でしたので。人間に対して怒りを押さえることを難儀とはしませんでした。敵わないことを知っていたからです。

猫は孤独で御座いました。

虐待のせいであちらこちらに傷が付いた猫はあまり他の猫からよい目では見られませんでした。春になりつがいを探す時期になっても猫の側には誰もいません。猫もまあ仕方がないと、諦めてさほど気にはしていませんでした。そのうち餌場が子猫を連れた母猫達で溢れるようになり、狩りの競争率が高くなりました。しかし猫は持ち前の腕っぷしでいつもとかわらず獲物を仕留めます。ふと、数匹の子猫が腹を空かせたのか近寄ってきました。猫は穏やかでありましたので、また獲物はとればいいと考え、子猫達にくれてやりました。食いっぷりのよい子猫達を微笑ましく思っていると突然、他の猫に襲われたので御座います。

母猫で御座いました。

子猫達、そして猫自身の。

猫は孤独で御座いました。

ですがそれに気がついたのは、この日からでした。
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