雑記 | ナノ

「天使といえばなんだけど、」


記憶がなくこちらに来たばかりの音無にこの世界こと、NPCのこと、また天使や存在するかしないか判らない神のことを説明してくれていたゆりが唐突に話を途切らせたことに、音無は首を傾げた。今まで判らない部分が有りながらも堂々と自分の意見、経験を述べていたゆりにしては珍しく、その顔には困惑のようなものが浮かんでいる。天使の凶暴性を嫌でも理解してしまっていた音無もそれを見て思わず真剣な表情になった。
若干もなにも、確実に天使に対してトラウマ気味になっていた音無は、なかなか口を開かないゆりに戸惑い緊張からか無意識にゴクリと唾を飲み込む。とんでもないことだったら一生――既に死んでるけど――関わらないようにしよう。絶対。ファーストインパクトは効果適面だったらしい。


「なんだ、なんなんだ。まさか天使を怒らせると死ぬよりも恐ろしい――っていうか死んでるけど、肉体的精神的大ダメージを受けるのか?それとも追い詰められた天使は爆発するのか?」
「は?何そのファンタジーちっくな設定。そんなベタな機能があったらうちのメンバーの半分はとっくに自主成仏してるわよ」
「いや、この世界とか天使のハンドソニックとか完全にファンタジーだろ」
「少なくともうちの戦線は現実的よ」
「学生が銃ぶっ放す現実があってたまるか!」


あと身の丈ほどの矛や丸太が激突してくるトラップなど忘れてはいけないがそれは置いておく。
失敬なと腕を組むゆりには悪いが、これが死んだあとでなければ完全にごめん被るところだ。記憶があったころの自分が戦争オタクだった場合別だろうが、残念ながら今の音無はそんな自分を想像したくなかった。


「で?だったら天使がなんなんだ」
「…話が反れたわ。天使が生徒会長だってことは言ったわよね」
「ああ」
「ちなみに生徒会役員も勿論いるわよ」
「え!?ま、まさかそれはみんな天使みたいな…」
「残念ながら手を出しちゃダメ。ちょっと口煩いNPCってだけなんだから」
「あっそ…問題ないんだな」
「問題というか…話そうとしてたのは腰巾着の話」
「は、はあ?腰巾着?」


なんだその大変不名誉な代名詞を付けられた存在は。
予想外のことに、深刻な顔をしていた音無の表情は完全に崩れた。何よその顔は、とゆりは睨むものの彼女も大きく溜め息をつく。


「まあ、注意するほどのものでもないわよ。天使も学生で、彼女には友達がいるって話で」
「その友達が腰巾着?…なんか嫌なコードネームだな」
「金魚の糞よりマシじゃない。ただその子、ちょっと変なのよね」
「(金魚の糞って…)ただのNPCじゃないのか?」


天使に友達。残念ながら想像は出来なかったが、生徒会長の友達というだけあってその腰巾着とやらもこの世界で普通の学校生活を送っているのだろうとあたりをつけていた音無は首を傾げる。
学校生活を送れば消える。つまりNPCになる。そう話していたのはゆりだったはずだ。


「ただのNPCじゃないのか?」
「NPC…だと思うんだけどね」
「今何か言ったか?」
「いや別に。とにかくその子に仕掛けられたことはないものの天使と共に行動するだけあってこちらも注意はしているの。あなたも下手に関わらないようにね」
「…まあ、大体把握できた」
「そう、ならいいわ。目下気をつけるべきなのは天使と消えないこと。それからおまけ程度に腰巾着ね」


それくらい覚えておくといいわ。
そう締め括ったゆりは空になったKEY珈琲の缶を手に屋上から去ってゆく。その後ろ姿を眺めていた音無は、校庭で部活動に励む生徒――この場合NPCを見ながら溜め息をついた。

面倒な世界に来てしまったものだ、と。







腰巾着の噂話


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