雑記 | ナノ

「そういえばゆりに聞いたことあんだけど、天使の腰巾着ってどんな奴なんだ?」
「なんだ音無は会ったことないのか。簡単にいうと天使にひっついてる奴だな」
「いや、わかるかよ」
「んな睨まれても特徴なんてないんだって!別に目立つ訳じゃないし」
「外見ぐらい教えとけよ。訳わかんないまま襲われたくないぞ、俺は」
「ああ、それは大丈夫だろ。あいつが人襲うなんて死んでもないない!」


笑いながら言った日向のその無条件の信頼に、不安を覚えたのは真新しい記憶だ。




音無はいつも通り学習棟B棟の自動販売機前で、Key珈琲に口をつけながら先程の会話を思い出していた。
日向はああ言っていたがどうにも天使の腰巾着とやらに不信感を抱いてしまう。なんせあの天使に付き纏う奴だ。3度という少ない経験ではあるものの、見た目ただの可憐な少女である彼女は確実に自分に影響を及ぼしている。その天使の腰巾着は3度とも見かけなかったが、どうにも日向の楽観的なそれが鼻について仕方なかった。


「っていうか俺ら既に死んでるし…」


今更ではあるが念のためツッコんでおく。
死んだというのも初回のアレがなければ信じがたいことだが先日の経験といい今懐にある拳銃といい、この世界に馴染みつつある音無にとって実感させる材料としては十分だった。
まあ、戦線メンバーも一部除き意外といい連中だし。
ぐいっともう一度珈琲を煽る。


「あの…次いいですか?」
「ん?」


と、後ろから聞こえてきた控えめな声に、音無はそちらを振り向いた。
天使と同じ制服を着た少女が自分の後ろに並ぶようにして立っている。次、という言葉に自分が自動販売機の前にいたことに気付き音無は慌てて横に避けた。


「わり。全然気付かなかった」
「ああいえ、こちらこそ」


謝る音無に慌てて手を振る少女はいかにも一般人という風貌で特徴も何もない。
自分たちとは違う制服、NPCか。初めてのまともな遭遇に思わず目で追ってしまう。ゆりから聞いていたが、抗うことのないキャラクターとはいえ自動販売機の前で何を買おうか迷う姿はまるで自分たちと同じように見えてしかたなかった。
指をお茶とオレンジジュースの間で行き来させる少女は難しい顔をしてうーんと唸っている。NPCというと感情はあれど設定のある人形としか思っていなかった音無にとってその様子は予想外である。思わずたかが飲み物一つに真剣に悩むその様子にぷっと噴き出せば、きょとんとした少女に目が合い、首を傾げていた少女は次いで顔を真っ赤に染めた。


「わ、私!?」
「ぷ、ご、ごめん。な、なんか可笑しくて…くく」
「可笑しい!?」


何が!?とショックを受ける姿がまたつぼに入り、再度盛大に噴き出しながら思わず顔を逸らしてしまう。
また衝撃的な顔をしてるのかと思いちらりとみればまさにビンゴ。さっきよりも少し泣きそうになっている姿が何故か可笑しくてたまらなかった。


「くく、あはははは!すっげー顔!」
「な、な、なんなんですか!そ、そんなに笑わなくても…」
「だ、だって…ッぷぷ」
「(また笑った!?)」


ガーンと盛大な効果音が付きそうな彼女の様子に音無は謝りながら口元がぷるぷる震えるのを抑える。


「そ、その、いきなり笑ってごめん」
「肩震えてますけど!」
「き、気のせいだ、ろ」
「声も震えてますけど!?」


必死に言い返してくる様子が面白くてたまらない。
こちらも懸命に笑いを堪える音無だが、今の彼の頭の中に、名も知らぬ彼女がNPCだということは全く頭に入っていなかった。







自動販売機前にて


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