小ネタにならないくらい短いやつ
ジャンルバラバラ配慮なし




▼【wt】烏丸


佐鳥が親友の普通校同級生




三門市といえば近界民から攻め入られる門が開く土地であり、それの被害を防ぐ為にボーダーと呼ばれる界境防衛組織がいることが特徴だろう。近界民はこちらに来る度に土地を壊し人を誘いそして殺す。そんな近界民を倒すことができるのはボーダーの技術だけで、技術を駆使して戦うボーダーの防衛隊員はそれはもう三門市ではヒーローそのものだった。
私のクラスメートで友人、烏丸京介もまさにそのヒーローの一人である。


「珍しい、烏丸が一日学校いるなんて」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ」


「そりゃ最近任務多かったが」とぐちぐちいいながら後ろの席に座る烏丸は無表情なくせに拗ねているようでそんな子供っぽいことをしても周りをときめかせるくらいイケメンなんだから顔面レベルの格差というものは残酷だ。これがこれまたボーダー就職中の友人、佐鳥であればうざいと一言切っていたというのに。ちなみに佐鳥はよくボーダーの有名人、嵐山隊の一員としてテレビに出るだけあって顔は悪くないと思う。だが烏丸と比較するとどうしても残念としか言いようがない。同じ嵐山隊であまり交流はないクラスメートの時枝くんだとそんなに残念には思えないが、それが佐鳥というものなんだろう。
とはいえ、いくら烏丸が「もさもさ男前」と評されるイケメンであっても今更ときめけないくらい私と彼のつきあいは深かった。勿論友人としてだけど。慣れたように常備してある飴玉を差し出せば烏丸は少しムッとしたようだが大人しく受け取りコロンと口に入れる。私も同じように放り込めば、馴染み深いパイナップルの甘さが広がるのだった。


「やっぱ美味いなパイン飴」
「定番だよねー」
「…じゃなくて」
「はいはい、いつもお疲れ様です」


詳しいことは右から左だからあまりよくわかってないけれど、烏丸も佐鳥もそれから時枝くんも、ボーダー内では優秀な隊員らしい。だから平日の学校生活の中で時折防衛任務ということで特別に学校を休むことがある。同じく同級生であり女の子ながらボーダーの防衛隊員である照屋ちゃん曰く、特に彼らの実力はボーダー内でも折り紙つきらしい。残念ながら同級生でしかない彼らしか知らないからその辺を聞いたときには生返事になってしまったことは覚えていた。
とはいえ時折警戒域で見かける近界民のことは怖いと思うしそれらと戦うボーダー隊員のことは凄いと思う。尊敬する。だがそれより烏丸達は私にとって身近すぎて同級生という立ち位置の方が優先されてしまうのが正直な感想で。特別公休とはいえ授業は進むし「ノートいる?」と聞くと烏丸は少し渋々だが「…いる」と頷くのだった。


「別に成績優秀者じゃないのに板書とまとめるのだけはうまいよな、蒲生は」
「よーし歯ァ食いしばれ」
「バイト先の店長らから嘆かれるから断る」
「わあ、イケメン爆発しろ」


飄々として烏丸はいうが、これが本当のことだから困る。佐鳥だったら遠慮なくたたき付けたのにと文句をいいながら鞄から取り出したノート数冊を差し出し、烏丸がそれを受け取りパラパラ適当に眺めて鞄の中に仕舞う。一言お礼を言われたから、仕方ないが溜息ひとつで許してやることにした。佐鳥ならジュース奢らせるところだったが。


「…お前、本当に佐鳥好きだよな」
「え、何それ急に気持ち悪い」
「さっきから佐鳥のことしか呟いてない」
「おっと」


佐鳥がこの場にいなくてよかった。任務があるからと妙にテンションを上げながら時枝くんと早々に帰った彼を思えば烏丸に「ほらまた」といわれ、口元を押さえる。無表情なのに呆れているのがわかるのは溜息一つがありありと語っているからだ。そんなに佐鳥佐鳥いってたかなと自分で不思議に思うが、別に不快ではなかった。


「…まあ、あれだよあれ」
「…」
「ほら、佐鳥は親友だから」


それか悪友ともいえるかもしれない。少なくとも、私はこのクラスの中の男子だったら一番佐鳥が親しいと思っているし、佐鳥も親友だと周りに公言している。勿論、色気関係なく学校内なだけでボーダー関係はわからないが、それでも佐鳥といるのは楽しいし烏丸も佐鳥経由で仲良くなったものだから妙に佐鳥の話題が出るのも仕方ないと思えた。本人には勿論言わないが。
うんうんと一人納得していると、烏丸が妙な顔をしていて首を傾げる。はて、私はおかしなことをいっただろうか。


「じゃあ俺は」
「は?」
「俺」


不機嫌そうな奇妙なものを見るようなとにかく無表情さは影も形もない烏丸が自身を指しながらいうのに、少し考える。親友の佐鳥ほど絡むことはないし、同級生の時枝くんほど遠い訳でもない烏丸の立ち位置。それは一言でいえば、あれしかない。


「友達?」
「……」


なんか不満そうな気がするのは気のせいじゃないだろう。完全にアイデンティティの無表情が崩壊している烏丸に、これは少し自惚れていいものなのだろうかと今更ながら少し照れ臭くなる。少ししどろもどろになりながら付け足すのはちょっとした本音だった。


「でも…現段階で一番の友達、かも」
「……」
「…烏丸?」


ひゅっと目を見開いて固まる烏丸に、どうせずっと一緒にいるような女の子の友達は少ないですよと内心思いながら不機嫌そうに名前を呼べば、なんだかゆっくり彼は動き出す。て、え。スローモーションみたいなその動きを黙って見守れば、ごんっと盛大な音が鳴りビクリと肩が跳ねる。音の原因、二人の間にあった机も思いも寄らない烏丸の頭突きという攻撃に否応なしに振動させ、机の中から盛大にノートなんかが出てくることに私は慌てるのだった。


「ちょ、何やってるの烏丸!?」
「…すまん」
「え、いやまあ烏丸の机だからいいけど。ああ、ほら資料集曲がってるじゃん」
「…すまん」
「いやだから烏丸がいいならいいけど」


机に突っ伏したまま微動だにしない烏丸に変わり、床に散らばった置き勉と思われる普段使わないノートや資料集を拾う為にしゃがめば、烏丸の大きな溜息が聞こえてくる。そりゃあ少し恥ずかしいことはいったと思うが大丈夫なのかな、こいつ。思ったより散らばった本が少ないのは烏丸イケメンだから盗まれたりするのかもなあと邪推しながら拾ったもの全てをまとめると、いつの間にか顔を上げていた烏丸と目が合ってそれらを差し出す。ん、とのろのろと机の中に戻す表情は無表情に戻っていて、額が少し赤いのがちょっと気になる程度だった。結構大きい音したからだろう、バイトはいいのか。


「……とりあえず佐鳥目指すわ」
「……なんの話?」


まさか佐鳥のように残念なイケメンにでもなるというのか。怪訝そうに返せば、烏丸は疲れたように「なんでもない…」ともう一度机に突っ伏してしまう。烏丸が佐鳥みたいに「女の子大好き!」なんて叫び出せば学校だけじゃなく烏丸のバイト先なんかも恐慌状態になるだろうなあと思いながら、いやでもハーレム築いてそうだと美女を口説きはべらすのが無駄に似合う姿を想像してやっぱ佐鳥と烏丸は違うわと思う。……うん、どっちも怖い。


「烏丸はそのままでいいよ…」


切実にそう呟けば、烏丸は机と友達になったままピクリとも動かずまた小さく捻り出すのだった。


「人の気も知らないで…」





11/03 ( 22:28 )




▼【探偵】続高木


高木が佐藤に呼び出されたのは本庁地下の駐車場で、その神妙さと場所に首を傾げた記憶は新しい。真剣な顔をする佐藤を見るのは大体仕事、つまり事件に関係することが多く、だが事件の話ならばデスクに座ってでもできることだ。わざわざ駐車場というからには私情なのだろうが、特に話される内容は思い至らない。気になりながら、佐藤が既に乗り込んでいる車の助手席に座ると腕を組み目を閉じた佐藤はピクリとも動かず、高木はその重い空気にびくびくする。


「あ、あのー佐藤さん。用って一体なんですか…?」


耐え切れず声をかけた高木に、佐藤はゆっくり瞼を開くがその眼差しは何処か冷たく静かで、見たことのないそれに高木は一瞬見間違いかと思った。が、


「――高木くん」
「!?は、はいッ!!」


低い。低くて重い声だった。
たった一言で彼女の不機嫌さを理解した高木はその場で背筋を伸ばす。そしてそれを機に佐藤からは隠し切れてない重いオーラが滲み出している。高木は思わず真っ正面を向いて、冷や汗が流れるのは禁じえなかった。なんだ、自分は一体何をした。佐藤が怒ることはそう珍しいものではないが、その怒り方は真っ向から怒鳴り付け睨みつけ真っ直ぐな佐藤らしい怒り方が殆どで、少なくともこんな重苦しい怒りではない。だが、ここまでの怒りの原因となることをしでかした心当たりも浮かばず、とにかく謝ろうかとも思ったが、それが逆鱗に触ることを考えると動くことはできない。駐車場には人一人通らず、助けも求められない。


「高木くん、今から聞くことを正直に答えなさい」
「な、なんでしょうか…」
「――#name#ちゃんに手ぇ出したわね」


あ、積んだかもしれない。
殺気のようなものに血の気が引いていくのを感じてながらぶわっと噴き出してくる汗に高木は固まる。いや、だが手を出すといっても自分が彼女と付き合っていることは佐藤も知っているのだし、それだけでこんなにも佐藤は怒るのだろうか。確かに佐藤が#name#のことを妹のように可愛がっていることは知っているが、高木もちゃんと彼女と両思いで、結ばれたときにはからかいながらも祝福はしてくれたのだ。…高校生に手を出したのは本当だから言い訳もできないが。ぶるぶると震える口の隙間から肯定の言葉を捻り出す。少なくとも嘘をついたら殺されると本能で感じた。


「そう…そうよね」
「………さ、佐藤、さん」

「とりあえず一発殴らせて」

「え」


次の瞬間突き出された拳に、狭い車内の中逃げることも出来ず、腹に沈んだそれをスローモーションで見つめながら高木は恐怖で見れなかった佐藤の顔を視界に映す。あ、やっぱり怒ってらっしゃる。明らかに青筋を立てたその様子に違いない拳の強さに、高木の身体は案の定耐えられず息を止める。
だが、爆弾は次に待ち受けているものが本番だった。



「避妊くらいしなさいよ、馬鹿高木!!!」



え。
と、思わず聞き返そうとしようとするが高木はあまりの痛みに腹をかかえてうずくまることしか出来ず、声も出ずピクピクと小刻みに震える。隣で怒りのあまりにふーふーと肩で息をする佐藤も一発加えて多少落ち着いたのか、追撃することなく拳を震わせてただじっと高木が回復するのを待っている。

そしてもう二人、佐藤の横の車の影でその爆弾発言を聞いてしまった交通課婦警がそこで互いに叫びそうになる口を抑えていることを高木と佐藤が知るよしもなかった。





警官が現役高校生孕ませたらそら犯罪だよなということで佐藤美和子怒りの一撃


08/25 ( 03:03 )




▼【探偵】高木


夏休みの真っ只中なその日、私は生理痛に襲われていた。

普段は病院から貰った薬を飲むから痛みもあまりないが、丁度その日薬がなかったのは最悪としかいえなかった。頭痛に腹痛、腰痛に吐き気、そして貧血も加わった酷い生理痛に、絶不調な中ふらふらと産婦人科に行ったのはあまりの痛みに耐えられなかったからだ。無事に薬を貰えて安堵しながら家に帰宅して、薬を飲んでベッドに転がってじっと回復を待って大人しくしていた中、携帯に着信がかかる。ぐったりしながらゆっくりと携帯を開けば相手は佐藤さんで、今思えば凄く神妙な声をしていて疑問に思った気がする。
ただそれに突っ込める余力はなく、ましてや生理痛が痛いだなんて言える訳もなく、元気がないのを何故か物凄く心配されながら覚えてるのは少しの会話だけだった。



『あ、あのね…実は私さっき#name#ちゃんが病院行くの、見ちゃってね』



ああ、それじゃあ生理痛で調子悪いのも知ってるのかな。そう少し安堵しながら「はあ」と返せば佐藤さんの声はどこか緊張していた気がする。



『……まさか、なかったの?』
「……?」



なかったもの。もしかして、薬のことだろうか。なんで佐藤さんがそのことを知っているかはわからないながら、頷いた私はこのとき主語がないことは些細なことだと思い、返事を聞いた佐藤さんが唐突に電話を切ったことにきっと事件が起こったのだろうととりとめなく思い改めて眠りについたのだった。


今思えば、このとき私は久しぶりの酷い生理痛に思考能力が低下していたのだろう。
でなければこのときの佐藤さんの様子が変だと聞き返していたし、唐突に切れた電話はかけ直していたと思う。そうしていれば、こんなことにはならなかったのだと生理痛とは違う頭の痛みにくらりとくることはなかったのだ。




「……なんかごめんなさい」
「…いや、まあ僕も、その、ね」


玄関口で、高木さんと二人並んで頭を抱えてしゃがみ込む姿は傍から見たら滑稽としか思えない。高木さんの格好はいつもと違いピシッと整えられたスーツで、こんな状況じゃなきゃちょっとはときめくほどだった。手に持っている淡いピンク色の花も綺麗で、紺のビロードで包まれた小さな箱も女の子の憧れで、これらを見て頭痛がするような事態に襲われるとは思いもしなかった。


ああ、どうしてこんなことに。


私の預かり知らぬところで何があったのか。疲れた様子で語る高木さんに、もういっそ倒れようかなと思った私は悪くない。悪くないと思いたい。思い、たかった。





先日アニコナの「本庁恋物語【告白・真実】」を見て高木×嬢verをちょろっと。
完成したら表出します。


08/18 ( 00:10 )




▼【jojo】転生3


血の繋がりがないとはいえ、ジョースター家の人達はジョージさん含め執事さんもメイドさんも凄くよくしてくれる。

お腹がすいたときにすぐに与えられる栄養たっぷりの離乳食に、暖かくて柔らかな洋服とベッド、現代で見たものより数倍お値段のしそうなアンティークじみた沢山の玩具に囲まれて、蝶よ花よと世話をされる日常。この時代こんな裕福な環境に無力な赤ん坊が居座れるのは一人息子であるジョナサンのついでだ、なんて考えてしまうのは、先日とある真実を知ってしまったから。ジョージさんたちのことは、好きだ。この家の人達も、好きだ。だからこそ早く報いるようになりたいと思っていた。迷惑はかけたくないと思っていた。だけど、そんなレベルですむ話ではない。死にたい。死んでしまいたい。もういやだ。なんで私はこんなところで生きてるの。帰りたい。私の生きていたあの世界に帰りたい。そうでもしないと、罪悪感で潰れてしまいそうになる。

今日も今日とて、寝る前に一度、必ず私とジョナサンを抱きしめるジョージさんの穏やかな笑顔を真っ正面から見つめ返す。なんで貴方はそんな幸せそうに笑えるの。なんで。どうして。なんで。なんでなんで。



貴方の奥さんを殺したのは、私の父親なのに。



どろどろの黒く濁った心の色など悟らせず、ただただ笑顔を浮かべる。満足そうなジョージさんの顔が見られればそれでいい。以前よりも、私は、笑顔を浮かべる機械のようになった。

父親が亡くなったときの事故。崖崩れが原因で、馬車ごと崖から投げ出され、馬車の中に彼ら一家がいたことは知っていた。でも死んだのは父親だけだと思っていた。ジョージさんが出会った頃のような怪我を負い、奥さんが死んでしまったなんて聞かされていなかった。事故、といえば仕方ないことになるんだろうか。でもその馬車を運転していたのは私の父親。加害者は私の父親だった。
喃語しかいえないこんな身体じゃ、そんなこと聞けやしない。いやきっと、言葉が話せるようになったとしても、聞く勇気なんて私にはなかった。頭の奥が冷たい。心臓が動く度にツキンツキンと痛む。怖い。怖い。怖い。人が死ぬのは嫌いだ。人殺しの加害者の気持ちなんて知りたくない。加害者の家族の気持ちなんて考えたことない。ましてや、私は父親の顔すらみたことない。なのに、父親のせいで、ジョージさんは奥さんを亡くしたと考えてしまうだけで、ざっと血の気が引いてしまう。初めてジョージさんと執事さんが話しているのを盗み聞きしとしまったとき、私は生まれて初めて大泣きして、吐いて、熱を出して、周りがあわてふためく中気を失い病院に入院した。罪悪感に押し潰されて小さな身体は耐えてくれなくて三日間眠りっぱなしだったと後から聞いた。
それ以降度々熱を出し、身体が弱いのだと勘違いされた。ますます周りは過保護になって、ただこれ以上迷惑はかけられまいと、泣くことだけはしなかった。どんなにしんどくても食事は無理矢理喉を通して、笑顔を浮かべられるよう努力した。熱を出すからと、最近はあまり近くにいないジョナサンにも優しく接するよう心掛けた。あなたのお母さんは、私の父親のせいで亡くなったのよ。丸々とした純粋なサファイア色のそれにそう心の中で語った。小さな赤ん坊に母親がいない、その気持ちを私は知らない。成長したときに一番近くにいてくれる女の人のことを彼はこれからもずっと知らない。私の母親もなくなっているけど、私は規格外だから。どんな赤ん坊とも違う存在だから。無垢で純粋で何も知らないのに私に手を伸ばしてくるジョナサン。玩具を上げたり、泣いてるときに慰めたりはできるけど、私はどうしても伸ばされたその手を掴むことはできなかった。ジョナサンにも、ジョージさんにも、ただただ赤ん坊のような笑顔を返すことしかできなかった。もう笑顔を作ることには慣れていた。


助けを求めることなんて、できなかった。
(だれか、たすけて)




シリアス入ってこの辺で終わってたぶつ
07/09 ( 12:15 )




▼【jojo】転生1部 2


同い年で赤ん坊だから仕方ないがこの家で私とジョナサンはどうしてもセット扱いになる。しかも数ヶ月先に生まれたというだけで奴の動きは私より機敏なものだから、毎回振り回されるのは私になるわけだ。全く嫌になる。だが赤ん坊の私がそんなこといえる訳がなく、嫌悪丸出しにしてたらジョージさんにも迷惑がかかってしまうことも容易にわかるので、今日も今日とて貼付けた笑顔でサファイア色した目を煌めかせる目の前の赤ん坊を適当にあしらう。生まれて数ヶ月で赤ん坊が育児ノイローゼとか笑えないが(しかも子供を産んだこともない)、今の精神状態を表現するのはそれが一番だろう。泣くのも怒るのも耐えて耐えて、赤ん坊の仕事も出来ない状態に、正直この小さな身体にはストレスは溜まりまくっていた。


「だあ…」
「あーあ?」


赤ん坊らしからぬ溜息をこっそり吐くと、目の前でふわふわな生地で作られた熊のぬいぐるみをかじっていたジョナサンが丸々とした目でこちらを眺めてくる。幸いなことに今日の世話係の執事さんは本を読んでいてこちらの様子に気付いていない。大人びた溜息をする姿を見せたくなかったし、なかなか過保護なこの執事さんはただでさえストレスフルな身体に過度な愛情を注ぐものだから正直身体に毒なのだ。人見知りをするたちでもなかったのだが、何故かジョージさん以外の大人に触られるのは苦手でしかたなかった。
ジョナサンはこちらの様子に構わず、ぬいぐるみをポイと脇に捨てると、こちらに手を伸ばしてくる。ギリギリ届きそうなそれになんとなく回避したくて覚束ない身体をゆっくり後ろに下げると、手は見事に空振りジョナサンの身体は絨毯にころりと転がった。まだ二人とも首が座ったばかりでハイハイができるくらい成長はしていないので転がったジョナサンは目をパチパチしばたたせてころんころんと寝返りを打つようにするしかないが、私はなんとか知識があるから、転ばないように身体を引きずって移動することはできる。ハイハイともいえない、なんとか両手の力をフル活用したはいずりでジョナサンから距離をとり、近くにあった私より大きいうさぎのぬいぐるみを引っつかみその躯を支えにしてぬいぐるみに寄り掛かる。端から見たら自分でいうのもなんだがぬいぐるみに包まれる赤ん坊と大変可愛らしい姿なのだろうが、寄り掛かっているこっちは疲労困憊中だった。赤ん坊ありえん。マジ疲れる。泣いて叫んで動き回ってってどこにそんなエネルギーがあるのかと疑問に思うが、寝て食べての時間が多いことに納得がいく。そりゃ常にこんだけ体力消費してたらあんだけ寝
ないともたないわ。実際、私もかなり眠たくなってきて、ふわふわ柔らかなタオル生地でできたぬいぐるみの感触が心地好い。絶対高いよこれ。いっそ寝てしまおうかとあくびを一つしてぬいぐるみに頬を寄せる。
だがそんな穏やかな気分を壊したのは、一つの唸り声だった。


「うー、うー」


何事か。
目茶苦茶不機嫌そうなその声に視線を向けると、まだ転がっていたジョナサンはこちらに視線を向けてむずがっている。どうやらまだ上手く扱えない身体がとてつもなく不満らしい。くしゃりと歪められたその表情が詭弁に語っていた。だが、ジョナサンより動くことができない私がそれを助けられる訳でもないし、なにより転がったのはジョナサンだ。自業自得だ。上下に手足をバタバタされて何かを訴えられても、できることもする気もなく、完全に無視して眠りにつくことにする。閉じた視界とぬいぐるみに預けた身体が心地良さに包まれるものの、数秒後に起こるだろうことを覚悟してまた溜息をひとつするしかない。あーあ、またか。ここ最近、こんなのばっかだ。


「う、あ、うわあああああ」
「ぼ、坊ちゃま!ああ、どうされたのですか。ミルクですか?」


いきなり泣き出したジョナサンに、慌てて持っていた本を投げ捨てた執事さんが飛び出してジョナサンを抱え上げる。その間ジョナサンは変わらずわんわんサイレンのような音を立てていて、あやす執事さんは困った顔をしているがあーあやっぱりと私は思うだけだった。赤ん坊の泣き声はまだ苦手というか、その性質上身体が反応してしまうものだが、ジョナサンの泣き声なんて慣れたものだ。可哀相などと、同情をさそうはずのそれになんとも思えず、冷えた視線を向けてしまう。なんせ、毎日毎日こんなやりとりで最終的にジョナサンは泣き出してしまうのだ。彼の訳のわからない行動に身体も心も慣れないほうがおかしい。
おかげで今日も私は聞き慣れた泣き声を背景に、お腹の辺りをちくちくさせながら仕方なく目を閉じ眠りにつこうとするのだった。




赤ん坊ってそんなもんですよねって話

07/01 ( 00:24 )




▼【jojo】1部転生



私の両親は、私を産んですぐに亡くなったらしい。



らしい、というのは両親の顔を覚えていないというより知らないから。柔らかい布に包まれて動くのもままならず目もろくに開かない、そんな時期に二人を失ったことは人事のようにしか思えなかった。母親は私を産んだ直後、産後特有の病気によって私を抱くことなく亡くなった。出産時仕事中だった父親は自身が運転していた馬車が崖から落ち、私を見ることも妻が亡くなったことを知ることなく亡くなった。このことを聞かされたのは、親を亡くしたものの情けで一月ほど病院で面倒を見られ、何故か傷だらけで包帯があちこちに見え隠れする中年の紳士に引き取られてすぐのこと。病院の人間からは親もおらず金も払えずただただ哀れみや疎ましさを向けつづけられ心にぽっかり穴が空いた感覚を覚えつつも泣くことのない赤ん坊の私を、血のつながりもない彼は、ただただ無言で抱きしめるだけだった。


普通、赤ん坊の頃にこのような話を聞かされても理解などできる訳はない。彼もそう思ったからこそ聞かせたのだろうが、私には何故か今の自分とは違う人生を送ってきた記憶が存在し、思考も赤ん坊のものではない。つまり両親の最期をバッチリしっかり記憶してしまったのだ。
これはとある眼鏡のバーローとかそんなレベルの話ではない。見た目は赤ん坊、中身は二十過ぎたいい大人。それが今の私だった。だがそれだけならまだ笑え――はしないが、どうにか――もならない、が、まだ精神衛生上幸せだった、と思う。私が二十年近く生きていたその時代は文明の利器万歳な平成の日本、しかし今いるここは標準語がイングリッシュでしかも馬車が闊歩して蒸気機関の蔓延るまさかの1860年代イギリス。どう考えてもどう過去です転生ですありがとうございます。幸いだったのは魔法やらなんやら不思議系能力的なものがないことや、この時代のイギリスはパソコンなどの電子機器はないものの私が生きてきた時代と相違が少ないことだろう。例えば裸で暮らすとか食べ物は焼くだけとかそういうのじゃなかっただけましだと思いたい。この時代の日本だと、江戸末期か明治初期になるのだろうか、着物当たり前、武士よ永遠に、明かりは蝋燭です、多分きっとそんな時代。歴史があまり得意ではなかったため中世ヨーロッパのことなんてさっぱりわからないがイギリスでよかった本当によかった。心からそう思った。偉人・名人、聞き覚えのあるような名前
の人物も出来事もなく、私がすることといえば小さな紅葉大の手足を自由に動かすこともできず、滑舌どころか歯もないフニャフニャな身体で、ゴロゴロ柔らかいな毛布に転がることだけだった。


私を引き取ったその男性は由緒正しいイギリス貴族の人間、ジョースター家という家の主人らしい。初対面が格式高い服装を身につけていたわりに怪我だらけボロボロだったのでもしやマのつく自由業の方かと思っていたが(この時代マ○ィアがいるかどうかは知らないが)まさかの貴族。執事にメイド完備のあの貴族。紳士っぽいなと思ってたがほんまもんの紳士じゃないですかヤダー!と遠い目をしたのは記憶に新しい。赤ん坊がそんなこと考えると露ほど思わない生紳士は鼻を鳴らした音に「くしゃみかな」とかいがいしく世話をしてくれた。
しかしながら私の死んだ両親は貴族という訳ではなく、ただの平民。何故そんな私が貴族に引き取られたかというと、どうやら私の死んだ父親がこの家に仕えていたかららしい。だが執事ではなくただの従者。父が死んだときの事故もこの一家を乗せていたときに起きたことのようで、父を死なせてしまった贖罪に私を引き取ったのだと悲しげに彼はいっていた。そんな命を助けるような親切をしてくれた彼のことを、嫌いになれるはずがない。こんな姿では彼、ジョージ・ジョースターの親切に報いることなどできないが、彼から与えられる心にぽっかりと空いていた穴を埋める優しさや慈しみに、私は毎日笑顔を浮かべる。泣いて迷惑をかけたくない。面倒な子だと思われたくない。なによりも一人だった私に家族を与えてくれた暖かな人、ジョージさんが大好きだった。


今日も私はぬいぐるみや大きな積み木がそこかしこに並べられた柔らかな毛で作られた絨毯にごろんと転がり、ジョージさんの命で私の世話を任された優しいメイドさんに見守られてる。ジョージさんはお仕事、メイドさんは最低限の世話しかしないし、この姿では本を読むことも出来ず(0歳で洋書を読めるスーパーベビーはさすがにごめんである)今日も退屈な一日を過ごすことになるのだろうが、そんな私も一人でゴロゴロしている訳じゃない。


「あ、まー」
「…うあー」


こらこら、積み木口にしちゃいけません。ぺっしなさい。と心の中で考えながらたどたどしく赤ちゃん言葉を口にし、目の前にいる綺麗な碧眼をもつ赤ん坊から、唾液でべとべとになった真っ赤な三角錐のそれを取り上げる。するとおもちゃをとられた赤ん坊は普通泣いてしまうだろうに、目の前のこの子はメッと頭に手をやると(叩くような力などなく乗せただけだったが)何故かきゃっきゃっと腕を上下に降り出して笑い出す。いや、泣かれると困るから嬉しいんだけど、嬉しいんだけど何を考えているのかさっぱりわからん。喃語でコミュニケーションだなんてそんな高等技術は持ち合わせていないし、私のように「おもちゃとか飽きたわーゲームしたいわー」なんて思ってるわけない。…っていうか世の中の赤ん坊の大半が私のような存在とかなにそれ怖い。トラウマになりそう。


「あだ!ば!」
「だっ!?」


いた、いたいいたい!なにすんだこのクソガキ!?ボーッとしてたらいきなり今度はこっちが叩かれて、不意打ちのそれは顔面にジャストミート。相手は男の子だからか、私が今赤ん坊だからか、見かけによらずかなりの威力を伴ったそれに顔をしかめて、涙はなんとか堪えながら目の前の赤ん坊から離れる。嬉しそうにきゃらきゃらしやがって、このやろう。今は同じ赤ん坊だからか、大人だったら笑って許せるそれが何故か苛立ちに変わってしょうがなかった。
―――というより、私は彼が羨ましくてしょうがないのだ。


笑って泣いて怒って寝て。普通の赤ん坊が当たり前にする仕事を、目の前の彼は何も考えず平気で行える。夜泣きをしても、ぐずって物を投げても、彼は無償でこの家の人間やジョージさんから愛される。
なぜなら彼はジョージさんと血の繋がった、たった一人の家族だから。


ジョージさんと同じサファイア色に輝く碧眼と、深い海の色をした髪をもつ、私なんかと違う天使のような容姿をした赤ん坊。ジョナサン・ジョースター。


私より数ヶ月先に生まれた無邪気に笑うこの子を、どうしても好きに思えなかった。



ジョナサンが好きすぎて書いてたらしきものをごみ箱からリサイクル。
ジョナサン前提の歴代ジョジョ夢になる感じで書きはじめた気がするけど原作が膨大すぎて諦めました。諦めは肝心
06/22 ( 21:28 )




▼【海賊】麦藁


「アルー」
「はい?」
「手ぇ繋がなくても消えなくなったんだよなー」
「はい。ちゃんと独り立ちできるように頑張りました!」
「もう繋がないんだよなー」
「はい」
「やだなー」
「…はい?」
「だってずっと手ぇ繋いでたのに」
「え、や、だからそれは誰かに触らなくても大丈夫なようになったからで」
「つまんねーなー」
「え、ええ、ルフィさん」
「ずっと一緒だったのに」
「う、うう」
「つまんねーなー」


「あら、久しぶりに見たわねあの光景」
「おお、アルとルフィが手ぇ繋いどる」
「物足りなさそうだったからなあルフィの奴。アルもアイツの我が儘に付き合わされて気の毒に」
「クソゴム…!俺も久々にアルちゃんと手を繋ぎたいってのに…!!」
「お、俺も俺も!じゃあ俺ルフィの次がいい!」
「あら、じゃあ私はチョッパーの次で」
「ヨホホ〜!では私は僭越ながらロビンさんの次をば!!」
「…」
「…」
「すかー」


「にししし」
「嬉しそうですねルフィさん。…それでなんで並んでるんですか皆さんは」



小ネタにいたダブルアーツ→海賊のキリエル娘と麦藁一味by2年後

06/18 ( 22:35 )




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