数年後の春


その日ビートはうちに居た。
ポプラさんが焼きすぎたスコーンのお裾分けに来てくれたわけだ。ポプラさんが時々気まぐれに焼くお菓子はどれもとても美味しいから、私はいつも楽しみにしている。
私は、知っている。
時々ポプラさんがお菓子を焼きすぎるのは、ほっとくと根を詰めがちなビートをこういう形で休ませる為だ。
ビートは気がつかないフリをしているけれど、ほんとはきっと分かっている。休みを取れと言って素直に聞くようなやつじゃないけど、お菓子を手渡されたときだけは素直に休暇を取るのだから。
「そういえば、一つ気になってたんですが」
砂糖をたっぷり入れたミルクティーをかき混ぜながらビートが言う。
甘党は相変わらずだ。
「なに?」
聞き返されたビートは小さくため息をついた。
聞くのを躊躇う様なこと、なのらしい。
「あのとき、返して欲しかった絵ってどの絵だったんです?」
思わぬ言葉を耳にして、私が「あのとき?」とさらに聞き返すと「孤児院の時の話です」と返ってくる。
なるほど、喧嘩別れしたあの時の話だから躊躇ったのか。
私は一つ笑ってみせ、口を開く。
「それ。まだ持ってるから、見せてあげる」
ベッドの上の棚からガラルポニータの缶を取り出す。片手に握られた缶を見てほくそ笑む。
この絵を見せたら、彼はどんな反応をするだろうか。ましてその絵が、私の初恋そのものだと知ったなら。
そんなことを思いながら、机の上にそっと缶を置く。
それから、ゆっくりと缶を開けた。
そこには私の初恋の肖像が入っている。

 




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