初秋


スタジアムに歓声が響き渡る。
私はポカンと口を開けて観客席からフィールドを見つめていた。
さあこれからトーナメントを始めるぞというその時になって、突然「ちょっと待った」などと言いながら、見覚えのあるウールーみたいな頭がフェアリージムのユニフォームを着てずんずんフィールドの真ん中へと歩いていくのだから。
彼は歩いていく途中で、ちらりとこちらに視線を向けた。恐らく私がちゃんと来たかどうか確認した、のだと思う。
これで最後でもいいからユウリと決着をつけたいと、ビートは乱入してきた、のらしい。
両者のボールからポケモンが放たれる。
目を、一瞬たりとも離せなかった。
一進一退の攻防、その熱気に当てられて、私も高揚していた。
ビートがブリムオンをボールに戻す。そのボールが大きく膨れ上がって、彼の投げ上げたボールからキョダイブリムオンが現れる。
スタジアムが湧き上がる。気がつけば、周りの観客と同じように歓声を上げている私がいる。
やがて戦いは終わり、勝者のユウリがビートへと歩いて近づいていく。そこで二人がどんな会話をしたかは観客席からでは分からなかったが、ビートは確かに晴れやかな顔をしていた。
鳴り止まない歓声が、ユウリだけでなく、ビートのことも讃えていた。
目頭がじんと熱くなって、悲しくなんかないのに、涙がにじむ。
震える手が鞄からスケッチブックを取り出す。鉛筆を握る私の手は、まだ彼の輪郭を覚えていた。

 




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