奇妙な邂逅|2.子供たちのいろいろ


「不幸中の幸いだったのは、言語による意思疎通が可能だった点か」

 言ったのは今まで一言も喋っていなかった男だった。
 真っ黒なスーツ姿という喪服のような出で立ちではあったが、三者三様どころかその場の全員がてんでばらばらな格好をしている状況においては、特に異彩をはなっていたりはしない。

「確かにねェ」
「少なくとも出身は同じ、ってこと?」
「それはどうだろうな。
全くの未知の世界に来ているのだから、単純に言葉が通じるだけで結論付けるのは短慮だろう」
「ちょっと待って、未知の世界?」
「何だ、気付いてなかったのか」

 橙色の髪の男が驚いたことに逆に驚いた、といった風に狐の面の男は言う。

「そこの…えっと、狐さんの言うことはホントだよ」
「可能性の一端としては考えていたが………」

 呼称に困りながらも緑色の髪の少年が肯定を示し、足元の草を抜たりと現状を監察していた男もまた半信半疑で同意する。

「原因は…この様子だとわかるものは居らぬだろうな」
「わかってたら、とっとと自分たちで脱してるしねぇ」
「右に同じ」

 流れ始めた重い空気を破ったのは、この中で一番若いと思われる少年の明るい声だった。

「とりあえずさ、自己紹介とかしない?」
「それよりも俺は、とっととココから降りるのがいいと思うけど?きっと夜になるとこのあたりは冷える」

 少年の提案を否定し、橙色の髪の男が主張する。
 それに反論したのもまた、少年だった。

「僕は…もう少しここにいたほうがいいと思うな」
「何故だ?」

 橙色の髪の男の隣にいた黒スーツの男が問いかける。
 それは…と口ごもった少年に助け舟を出したのは、その隣にいた亜麻色の髪の男だった。

「ま、そんなわけで俺達はここに残るよ」
「どんなわけだかさっぱりわからないが、正気か?」
「まあね」

 黒スーツの男の言葉に、当然のように亜麻色の髪の男は返答する。
 同調したのは狐の面の男だった。

「では、我々もここに残るとしよう」
「理由は?」
「確かに夜になれば冷えるだろうが、すぐさまこの丘を降りたところで人家のある場所にたどり着くとは限らん。
ならば、ある程度この場所を探ってから動くのも悪くないと思ったまで」

 狐の面の男の言葉が終わったところで、橙色の髪の男はスーツの男を振り返る。
 黒スーツの男はしばらくの逡巡を見せたが、一つ頷いて結論を出した。

「彼の言うことにも一理ある…か」
「ま、そう言うなら」

 渋々といった様子で橙色の髪の男は従った。
 とりあえずこの場は、今しばらく残るということに決定したところで、再び少年が明るく皆に声を掛けた。

「それじゃ、自己紹介!
遅くなったけどはじめまして、フローリアンって言います。
こっちはデルカ。よろしくね」

 差し出された手は、スーツの男が握り返した。
 何となく場の空気が和らいだようで、スーツの男の顔から僅かに緊張が抜けたのが見えた。

「暁という。そっちは佐助だ」
「どーも」

 スーツの男、暁に紹介を受けた佐助は、ペイントの施された顔に人好きそうな笑みを浮かべた。
 そうして皆の視線が、未だ名を名乗っていない二人の男へと向いた。

「名は叶。これは三環」

 互いに名乗りあったところで、声を上げたのは叶だった。

「探る…といっても、あまり動き回るのは得策とは言えぬがしかし、ただ何もせず待つというのも時間の無駄だな」
「なら洞窟の一つでも見つけておくのはどう?
あとは薪と水と、食料…は難しいだろうけど、何かありそうなら見つけてくるのがいいんじゃない?」
「多分、あっちの方に小さな泉がある…と思う」

 佐助の訝しげな視線を受け、フローリアンの言葉は最後のほうの言葉は尻すぼみになっていた。
 緑の髪をわしゃわしゃと撫でながら、デルカはその背中を押した。向かう方向は、フローリアンが示した、泉があるという方向。

「それじゃ、水は俺達に任せておいて」

 佐助は何も言わずに二人の背を見送り…完全に姿が見えなくなったところで、残りの三人を振り返って宣言した。

「俺はひとっ走りして辺りを探ってくるよ」
「なら、残った我々は洞窟を探りながら薪を集めるとしよう」
「佐助、一時間でもどれ」
「了解ッ」

 言い終わるや否や、佐助は風のように消えた。





 日暮れの頃には、水に薪に洞窟…と最低限必要と思われるものが揃っていた。
 一番最後に戻ってきたのは辺りを探ると言って出かけた佐助で、どうやら収穫があったらしく、皆が揃っているのを見ると同時に口を開いた。

「一応村みたいなのがあったけど…やっぱり狐の旦那の言葉が正しいみたいね。随分様子が違った」
「どの方角だ?」

 暁が問うと、無言で佐助は指で方向を示す。
 目を凝らしても木で覆われた一帯に民家の類は見えなかったが、薄く煙が立ち上っているようにも見えなくは無かった。
 なら、明日移動しよう、と皆が結論をつけたところで、佐助が洞窟の天井を仰いだ。

「妙な音しない?」

 しかしその音を拾えたのは佐助だけで、デルカや暁は耳に手を当てても首を傾げるばかり。叶と三環に関しては一度天井を見ただけで、すぐに視線を前へと戻し、直後、雷が落ちたような轟音が響き渡り皆一斉に外へと出た。

 探る、といって一番に駆けたのは佐助で、その後にデルカがフローリアンを気にしながら続く。

 たどり着いた先には、白い甲冑を着た茶髪の少年と、白い法衣を着た金髪の少女が倒れていた。

「この二人も、どうやら俺達と同じみたいね」

 ところで、とフローリアンを見る佐助。

「何で来るってわかったの?」
「…なんとなく?」
「フローリアンの勘はよく当たるんだ」

 佐助から庇うように、デルカがフローリアンを引き寄せた。

「佐助」
「これは失敬」

 おどけて見せたが、互いに警戒を緩めない様子だった。
 そんな四人の横をすり抜けて、叶が三環を伴って倒れる二人へと近づく。そして三環がその細腕のどこに力があるのかと首を傾げるような軽々しさで二人を抱え上げた。

「諍うのなら場所を改めてはどうだ?」

 叶の顔に一同が顔を見合わせ、一時休戦が決まったようだった。

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