Chasm(in bsr/上杉)|西までのマウンテン|主人公視点

 今回、与えられた役割は寺小姓だった。
 シャミも無事に人の形を取っていることが、何よりも僕を安心させた。
 詳しい経歴を聞いた気もするけど、あまり重要だとは思えなかったので細かくは覚えていない。

 目の見えない僕にできることはそう多くはない。
 シャミに手伝ってもらわなければ掃除すら満足にできないというのに、住職は暖かく迎え入れてくれている。
 あまり居心地がいいとはいえない環境だが、戦から遠いこの位置は前田に次いで恵まれているといえるだろう。

 そういえば今日は新しく誰かが来ると聞いている。
 一体どんな人が来るのか。
 考えながら欄干の雑巾がけをしていると、誰かの膝に当たった。

「ご、ごめんなさい」

 まさか誰かがいるとは思わなかった。
 頭を下げるが、相手から反応は無かった。
 てっきり同じ寺小姓かと思ったが違うようだ。

「えっと…誰ですか?」

 その人は僕の問いには答えず、

「あなたからはきみょうなきをかんじます。
まるであやかしのようです」

なかなか失礼なことを言い放ってきた。

 声は少年のもの。齢はそう変わらないだろう。

 もしかして僕が何なのかわかるということだろうか。
 だとすれば面白い。

「正解」

 とりあえず肯定してみた。

「それで?妖の僕に喰われに来たの?」
「あやかしはひとをくらうものなのですか?」
「気が向けばね」
「あやかしはここでなにをしているのですか?」
「見ての通り掃除を」
「あやかしはそうじをするものなのですか?」
「ここに住まわせてもらっているから」
「あやかしはそうやってめをとじているものなのですか?」
「僕は目が見えないからね」
「あやかしのうしろにいるそれはいったいなんなのですか?」
「さぁ。それは僕にもわからない」

 矢継ぎ早に繰り出される質問が一度途切れたところで、今度は僕の方から質問をしてみることにした。

「ところで、君は何をしにきたの?」
「ここでそうじをしているというものをよびにきました」
「………それは、もっと早くに言って欲しかったな。シャミ、行こうか」

 シャミを呼んで、そして僕を呼んでいるという住職の元へと向かった。

 それから僕は"あやかし"、シャミは"あやかしのかげ"と、その子供に呼ばれるようになった。

 その子供が後の上杉謙信だと気づくのはもうしばらく先のこと。

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