Chasm(in silver soul/***)|唐突な終わりの話|主人公視点

そろそろ帰らないと。
立ち上がり、歩き出そうとした矢先、襟首を掴まれ、引き倒された。
踏み出そうとした先にあった断絶に、息をのむ。
すっぱりとその先が切り取られて、何もなくなっている。
試しに手元の小石を投げてみれば、断絶に触れたところから消え失せる。
落ちるでもなく、粉砕されるでもなく、消失する。
僕がそれを冷静に見てられたのは、見覚えのある現象だったから。
どうやら僕は失敗をしたらしい。
正しいことをしているのに、おかしなことだと自嘲する。
仕方ないから少しやり直すしかないか。
戻ろうか、シャミ。
「不可能」
そう、僕を救おうとしてくれたその存在に声をかけようとした矢先、知った声がいった。
顔だけを廻らせ、仰げば、見慣れたような硝子をはめこんだみたいな目と目が合う。
「シャミ………………じゃないね」
けれどその硝子には、無色ではない、色味があった。
「久しぶりだね、長門さん」
「久しぶり」
シャミの身体を借りた長門さんは、動じること無く、少しだけ調子を変えて同じ言葉を繰り返した。
強い違和感と、焦燥感。
頭の中で警鐘が鳴る。
「貴方を助けて欲しいと言われた」
誰に、かは聞くまでもなく、キョンくんにだろう。
「そっか」
お礼は言わなかった。
救済に色んな意味や方法があることを、僕は誰より知っている。
「それじゃ、早速で悪いけど、少しだけ時間を遡るから一緒に来てくれないかな。そしたら、彼女を助けた僕を止めておいてよ。どうも彼女を救ったのはよくなかったらしいね。けど、おかしなことだと思わない?労咳で死ぬのは沖田の弟の方で姉じゃない。だから正しくそうなるようにしようと思っただけなのにさぁ……まぁいいけど。いつも通り記録を弄ってしまえばいいだけだし。半世紀も経てば、今の時代、誰も真実なんか分かりはしないし。
それじゃ、行こうか」
誘うように伸ばした手は、掴まれる気配もない。仕方なく、袖の中に引っ込めた。
「いいよ。自分でもできるから。あー、それとももう少し前からやり直すべきってアドバイス?」
「いいえ。ここで全て終わり」
突きつけられたのは、薄いナイフだった。
先端の丸い、お子様にも安心安全な設計のペーパーナイフ。
握り込んだところで皮膚の一つも裂けやしないそれを突きつけられて、思わず一歩退きそうになってしまった。
これは本格的に、僕が何をしようとしてるのかがバレたらしい。
あるいは僕が、何なのかも。
「見逃してよ?」
ね?と、首を傾げて言うけれど、長門さんの反応はない。
微動だにせず、切っ先は動かない。
「悪くない妄想だと思うんだけど。
君たちには過去がない。キョンくんと涼宮ハルヒが関わり合うに足る、文字に起こされている中学より前は存在しない。
かたや、こちらの世界には未来がない。永久に閉じた幕末があるだけ。
お互い補完し合うにはちょうどいいと思わない?」
長門さんは応えない。
平静を装いながら、内心では必死だった。
目の前の長門さんがいつの長門さんかはわからないけど、少なくともシャミと差異があるということは、無限の夏休みより後だろう。
そう願いつつ訴えかける。
「あと少し、あと少しなんだ。ほんの150年ばかり頑張れば、君たちの所に繋がるんだ。
僕は漸く……君たちの所に帰れるんだ」
それが望みだった。
それだけが、希望だった。
そのためだけに、トライアンドエラーを繰り返し続けた。
あの可笑しな戦国時代を彷徨って、いつか、いつか、助けが来る。来なかったとしても、僕の方から行くことができる。長い時間はかかるだろうけど、未来は確かにみんなの所に繋がっていると。
「長門さんなら、僕の役割を覚えているでしょう?
僕は学生映画コンクール応募のための資料集め。
僕はただ、カミサマの望むとおりに役割を果たそうとしてるんだよ。君に邪魔される理由はないはずだよ」
戦国時代の実地調査。それが僕に与えられた役割。
彼女に報告してはじめて、完遂されるはず。
「けれどそれは全て存在しないこと」
長門さんは静かに否定した。
思わず、頭に血が上る。
「違う。違う違う違う!
彼女は確かに学生映画コンクールに出場するって、そう言って僕を!」
「涼宮ハルヒの発言について、明確に映画を作成すると明言しているのは文化祭の時だけ。
学生映画コンクールについては、貴方の空想の産物」
違う、と言いたいのに、喉は貼りついてしまったみたいに動かない。
「だ、としても。
戻りたいって思うのは……そんなに悪いこと?
勝手な都合で呼び寄せられて、かと思えば飛ばされて、自分の居場所ぐらい自分で決めたいって思ってなにが、なんで!」
「善し悪しの問題でないことは、自分が何であるか、自身が初めから存在しない、東条叶とはただの現象であることを自覚しているあなたなら、既に理解しているはず」
激情は、急激に引いていった。
「あなたがこちらに戻ることなどできない。
あなたが描いた余白は既に消失している。
戻ったところで」
「誰も僕を覚えてないって?」
それもまた想定内。
むしろ、だとすれば、もう一つの方向で進めれば、と思った瞬間、ペーパーナイフの切っ先が喉に迫った。
「たとえ繋がりができたとしても、貴方は彼にはなれない」
長門さんの指に力が篭ったのを、僕は確かに確認した。
「……シャミに、それを言ったことはなかったはず」
シャミが、情報統合思念体が見抜いていたのかどうかは確かめようがないけど。
「何より君達との利害衝突はないはずだ。
観測に比較対照実験は必須だ。例えば涼宮ハルヒに影響を与えるのが別の存在だったら。それは興味深いデータではないの?だから君はあの消失を見逃されたんだろう?」
長門有希は一度、世界を改変した。
涼宮ハルヒの力を拝借し、エラーとして積み重なった自身の恋心というものに突き動かされ、人物の配置を改変した。
彼の側には、長門さん。
涼宮ハルヒの側には、古泉。
長門有希の挙動を統合思念体が見抜けなかったはずはない。
だからきっと、実験だったのだろう。
涼宮ハルヒの側に、別の人間を置いたらどうなるのかという。
今回の僕のキョンくんとの入れ替わりだって、実験データを得るために看過されておかしくなかった。
彼はあくまで統合思念体にとっては涼宮ハルヒの添え物。トリガーとなる存在。
だったら。
だったら、僕でもいいじゃない。
僕が主人公になったって、いいじゃない。
「つまり君は独断で彼を唆したんだね」
長門さんは答えない。
正解とも、不正解とも。
「私は貴方を助けに来た」
「助け方を伝えなかった癖に。
僕を消す。そういうことでしょ?」
「そう」
漸く、返事があった。
長門さんは全面的に肯定した。
「もう一度いうけど、見逃してよ。
たかが無数にある本の一つの余白ぐらい」
「それはできない」
長門さんは静かに、首を横に振った。
本の余白。そこが僕の存在する全てだと知ったのは、義弟に斬られたときだった。
思い浮かぶことは、書き綴れることは実行できる。本の外側に降りて頁から頁へと飛ぶことも、頑張れば前に戻ることも、
けど、既に確定した、描かれた未来は変えられない。起こった過去の上書きは幾らかはできるけど、根本からは変えられない。
未来を自分で作ることはできない。
近いことをしようとしたけれど、このザマだ。
「本と本を繋ぐ無謀を行う貴方を見逃すわけにはいかない」
「……そこも、バレてたかぁ。
やっぱり最初に、僕の世界ではここが物語になっている、なんて言わなきゃよかったな」
完全に降参だった。
もう逃げ場もないし、長門さんも逃してはくれないだろう。
諦めるしかなかった。
それにしても、酷い駄作が出来上がったものだ。
長政に斬られた方の目に集中すれば、うっすらとボロボロになった本が見えた気がした。
酷い酷い。酷すぎる。
こんな紙束、燃やすぐらいしか、価値がない。
思った時には、あちこちから炎が吹き上がっていた。
「いつでも」
いいよ、という間もなく、長門さんはペーパーナイフを手放した。
真っ直ぐに地面に刺さって、足元が切り離される。
断絶の向こうに身体がおちていく。
長門さんの姿は見えず、代わりにペーパーナイフと猫の姿のシャミが落ちてきた。
咄嗟に両方にてを伸ばし、捕まえた。
柔らかな毛を掴んで持ち上げ、見知った硝子玉を覗き込む。

ねぇ、シャミ。僕は本当に存在しているのかな?

最期の問いは言葉にできないまま、意識は崩れていった。



呑み込まれる感覚が終わり目を開くと、目の前にあったのはがらんとした教室だった。
夕焼け色に染まった黒板には、誰かが書きっぱなしにした下手くそな落書きがある。
両目がしっかりと見えている。久しぶりに、約千年ぶりに、世界を立体で見た。
日が落ちて教室が暗くなる。廊下の蛍光灯のおかげで、完全に何も見えないなんて自体にはならずに済んだ。
ふと誰かがいる気がして横を見たけれど、ただ窓ガラスに映っている"自分"がいただけだった。
そこに居たのは紛れもない自分だった。
もう記憶にも残っていないかつての姿ではなく、信長として始まり裏切り者として終わった慣れ親しんだ姿。
ああよかった。今更昔を持ち出されでもしたら、君は誰?とか言ってしまう自信があった。
ただし服装は芝居めいた白装束に狐面ではなく、北高の制服。生地が厚いから冬服だろう。
足下を見れば、シャミがいた。手を伸ばせば、心得たように肩によじ登ってくる。
その重さが、なんとも心地よかった。
時計を見ると、時刻は五時を回ったところだった。
まだ、部活動の時間だ。
足は自然と文化部部室棟3階へと向かっていた。
木製の階段を踏みしめて、暗い廊下を抜け……唯一灯りの漏れ出る扉の前に立った。
中からは楽しそうな声が聞こえてくる。
いつものように。かつてのように。ドアノブを握り込み……そこから手を離し、ドアをノックした。
「どうぞ」
訝しげな、だけどどこか期待を覗かせる、そんな声が中からかけられて、ドアを開いた。
視界を巡らせると、皆が……本から顔を上げない一名を除いて"誰だ?"とでも言いたげな視線に晒された。
僕も僕で、部屋の中を見回す。
湯飲みは五つ。一つ足りない。
窓際の笹に飾られる短冊は十枚。二枚少ない。
ハンガーラックを見れば、どの衣装も一着以上が存在しない。
ボードに貼られた勝敗表は、縦も横も一行足りない。
なるほど。ここも正常化されたってわけか。
「アンタ誰?何の用?」
ぶしつけな質問が投げかけられて、僕は彼女を見た。
憎悪をぶつけかけて、それを押しとどめる自信がなくて目を逸らして本から顔を上げない彼女を見た。
そのまま立ち去るのは不自然だなぁと思ったら、自然と口から言葉が出てきた。
「ここって、コンピ研じゃなかったっけ」
「コンピ研は隣よ」
SOS団への用事でなかったからか、不機嫌そうな声が聞こえてきた。
「そう。ごめんね。お邪魔しました」
ぱたんと、木の扉を閉めた。
足早にそこを立ち去って、階段を駆け下りて、だけど二階と三階の間の踊り場で堪えきれなくなってしゃがみ込んだ。
木目に染みこむ大粒の滴が、二つ三つと数を増やしていく。
「大丈夫」
大丈夫。今までだって、何度も、あったじゃない。
誰も僕を覚えてないなんて、それこそふつうでとうぜんのことじゃない。
そうやって気を取り直して立ち上がって……もう何もかもが面倒になって、飛んだ。
飛んで、即座に座り込む。
ちょうどいい具合にブランコがあって、僕の体重を受け止めて金属の鳴き声を上げた。
涙は出てこず、金属の鎖に頭を凭れかけた。何をする気も起きない。
街灯を見上げて視線を落とすと、暗い場所から明るい場所へと見知った姿が現れた。
僕の知る彼と、双子の兄弟と言って差し支えないぐらいの存在。
性別が違って、少しだけ身長が低い。さっき部室で唯一視線を合わせなかった彼女。
「何の用、長門さん」
そういえば今は一体どの辺りなのだろうか。
消失は起こった後なのだろうか。
雪山には行った後なのだろうか。
……まあどうでもいいか。それにしても長門さんは何をしに……。
「ああ、そっか」
肩からシャミを外して抱きかかえる。
一度その毛に顔を埋めて、ありがとう、と小さく呟いた。
「ありがとう。返すよ。助かった」
けれど長門さんは、シャミセンに手を伸ばさなかった。
距離を保ったまま、近づいてこようとしない。
「情報統合思念体は未だあなたへの関心を失っていない。
それはまだ、あなたに預ける」
そして淡々と、告げてきた。
「そっか」
それだけ言うと、長門さんは踵を返してどこかへ消えていった。
「ありがと」
声は、果たして届いたのだろうか。


気がつくと、朝になっていた。
制服姿でふらふらしているというのに、誰に見とがめられることもなく町中を歩く。
学校に行く気は起きない。近寄らない方が無難だろう。まあ、どこにいても大差はないだろうけど。
少しお腹が空いた。そういえば何も食べていない。お金は……とポケットを探って、見つけられたのは一粒の金平糖だった。
口に運んで噛みしめる。甘さが広がり、口の中に残る。
後は何処を探っても、何も出てこなかった。
もう何も持っていない。
もう何も残ってない。
「身軽だな」
前向きになれるかと思って口に出してみたけど、それすら軽すぎて直ぐに消えていった。
とりあえず質屋にでも持ち込めそうなものでも作ろうかと考えたその時、雑踏の中で、それを見つけた。
間違えるはずは無い。
走って、走って走って。
人を押しのけるようにして、一直線に目指す。
「待って!」
声は届かない。当たり前だ。相手は僕を知らない……かもしれない。
あるいは記憶と違うかもしれない。
だってこの体は、ゲームの始まりより前で止まっている。
足がもつれる。
息が上がる。
肺が痛い。
けど、止まるわけにはいかない。
「待って、帰蝶ッ」
そうしてやっと辿り着き、腕を掴んだ。
相手が驚いたような顔をする。
それはそうだ。だって僕の顔は……。
「かずさの……」
相手は言いかけて、半端に止まった。
間違いない。
正常化されたのであれば、僕は彼によく似ているはずだから。
相手は警戒をした風をみせ、だけど僕の風貌に戸惑っているのがわかった。
「少しだけ。話を聞いてくれないかな。30秒、聞いてくれるだけでいいから」
「え、ええ……」
「ありがと」
僕の剣幕に押されて、彼女は頷いた。
一度深呼吸をして、そして相手を見据えた。
「君に伝えたいことがあったんだ。何度も何度も。伝えたいことがあって。だけど、伝えられなくて」
だっていつだって、君は僕を。
軽く息を吸って、そして紡いだ。
「さよなら」
相手の目を見て、笑って言った。
ずっと言えなかった。
だって君は、いつだって僕より先に逝ってしまった。
けど、やっと言えた。伝えられた。
何百年か越しに言葉にできて、胸にずっと残っていたわだかまりが消えた。
「呼び止めて、ごめんなさい。あんまりにも、亡くなった知り合いにそっくりだったから」
「いいえ」
「気を悪くしたかもしれないよね。ごめん。だけど、聞いてくれて、ありがとう」
僕は、彼女から手を離した。
遠くに見える自分と少し重なる姿。隣には、覚えのある子供の姿。
三人が並べば、どこか懐かしい。鏡の中だけでみた風景がそこにあった。
「さよなら」
もう一度だけ言葉にして、僕は彼女に背を向けた。
彼女は、今はどういう立場にいるんだろうか。何をして、何処にいて、誰と共にいるのか。
まあ、"僕"にはかかわりのないことだ。
「さぁて、どうしようかな」
この様子だと予想通り全国津々浦々を巡れば、懐かしい姿に会えるのかも知れない。
今度はみんな仲良く。
ここではそれができるのかもしれない。
カミサマの慈悲みたいなものなのだろうか。
悪くない。けど。
「笑えない」
うん、全く以て、笑えない。
「あは。はははッ」
笑えない。笑えない。笑えないよ。
町中で突然笑い出した僕に、みんなが怪訝な顔をして振り返る。
なのに笑いが止まらない。
だって、みんな仲良くしたって、結局僕は彼らに取り残される。
「あはははははははははははははッ」
未だ身体に巣くったままの存在を感じる。
長門さんがシャミセンを僕に預けたままなのが、それの裏付けでなくて何なのか。
つまり、それは。永遠が続くと言うことで。
「あはは、あは……はぁ。疲れたな」
笑い疲れて、表情を元に戻した。
当て所なく歩いて、工事中のビルの屋上に辿り着いた。
大方完成していて、あとは足場を外すだけの真新しいコンクリートに座り込む。
そういえば僕は、どこに帰ったらいいんだろう。
確かキョン君の家に居候をしていたはずで。
けれど彼は覚えていないんだから、そこに戻れるはずもなく。
「まあ、なんでもいいか」
どうせもう、戻る気はない。
さてと……これから、何をしよう。
今度はこの世界でも壊してみようか。
ああでも最後には、カミサマに負けてしまうんだろうなと思ったら、やる気が全く起きなかった。
なら、全然違う見たことの無い別の場所にでも行こうか。
一人で。一人と、一匹で。
それはまた、つまらない話だなぁ。それでも暇つぶしぐらいにはなるかもしれない。
「ねぇ、シャミ。ちゃんとついてきてくれる?」
決まり切った答えを聞きたくて、問いかけた。
「もとより」
シャミは間を置かずに口を開き、しっかりと僕を見る。
「それが私の役目」
そして淡々と、僕に言った。


【 了







あとがき
これにてひとまず、彼の話は終着となります。
本当はもっと色々とやろうと思っていたのですが、というか本当はオリジナル編→動乱篇→オリジナル編、でやっていこうと思っていたのですが…………なかなかうまく行きませんでしたね。色んな話を書きたいところだけ書いて投げっぱなしにしてきましたが、どうしてもこの話だけはちゃんと最後まで書きたくて、だったらここで終わりにしてしまったらどうだろうと方針転換をしてみたら案外うまく行きました。結果、今度は逆に色んなオリジナルキャラとか伏線とか全部投げっぱなしになりましたね。ままならないですね。でもそれも、意図したとおりにならない、思い通りにならない、この話らしくていいんじゃないかと思ってもいます。
色んな方からコメントで、主人公を救済して!みたいなことを頂いて心苦しいなぁと思いながら書き続けていました。なにしろ私が彼を救う気ゼロでしたから。そもそもこの話、救われないトリップ主人公を書きたい、で始めていました。私自身悲劇のほうが惹かれるタチで、足掻きながら転がり落ちていく話にしようと思っていました。初心貫徹です。
デフォルト名で読んでいらっしゃる方がどのぐらいいるのかはわかりませんが、一応意味があってつけました。

東条叶。
とうじようかのう。
登場可能。

とまあそんな言葉遊びです。
どこにも出現できて、だけど本当はどこにもいない不確かな存在が、彼です。彼の立ち位置は、不幸なことに彼は当初は無意識に、途中からは自分が不確かな存在であることに自覚的になっています。
タイトルのChasmは、本当の登場人物である原作のキャラクターたちとは決して交わることができない隔たりがある、断絶がある、という意味でつけました。
立ち位置としては物語の外側で、物語の読み手として起こることを読み流しているうちは幸福だけれど、そうでなければ自分の不存在感が強くなり、途端に不幸になる。彼が自由にできるのは話の余白という限られた場所なので、なんでもできるようで結果何もできない。けれども何もしなければ、白紙のままで居続ければ今度は自分の存在自体の不確かさが強くなり、やはる不幸になる。発想のコンセプトはデカルトですね。「我思う故に我あり」な。そうやって自分で自分を自覚し続けなければ存在できず、しかし自覚し続ければ断絶を感じて不存在になっていくため、彼は自身を観測してくれる他者を求めてしまう。それがシャミセンを手放せない、厭うようでありながら依存する一番の理由になっています。けれどそのシャミセンでさえ、自分自身の余白の妄想の一端ではないのかと恐れ続ける原因にもなっている。そんなジレンマを抱え続けて不幸になりつづけるしかないのが彼ですね。
彼が唯一幸福になる道があるとすれば、自身と立場を同じか親しくする、自分をしっかりと認識してくれる他者が現れることでしょう。
それはまた、別のお話。

ここまでお付き合い頂きありがとうございました。








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