Chasm(Another/IF)|ロマンス乗せた流星群|坂田銀時視点

 戦場のど真ん中に、赤と青が転がっていた。
 激戦区から少し外れていたおかげか、幸いにして外傷はゼロ。
 天人たちの死体に折り重なるようにして転がっていたから、天人立ちに気づかれることもなかったのだろう。そして俺もまた気づかないまま、通り過ぎてしまうところだった。

 生きているからとがんばって引きずって帰れば、俺たちの陣を仮宿にしている叶と佐助が酷く驚いた顔をした。歯切れの悪い話を掻い摘んで聞けば、どうやら知り合いらしい。ヅラがますます胡散臭いといった顔をしたが、それだけで、辰馬は相変わらず馬鹿みたいに笑うだけだし、高杉は放置を決め込んでいる。俺はといえば、そいつらが敵か味方かは、そいつらが起きた後に考えればいいだけのことだと、看病に関しては叶と佐助に丸投げをしてそれっきりだった。

 思い起こせば、叶と佐助と出会ったのも戦場だった。
 立場は今回とは逆で、天人に囲まれているところを俺たちとは違い京都を目指しているという佐助と叶に命を拾われた。以来、いずれは別れることになるが、拠点を共にしている。ヅラなんかは叶の腕を見込んで仲間に、と考えているようだが、まあ脈なしなのは明白だ。
 今日もまた、熱心に叶を陥落せんと意気込むヅラに、適当に相づちを打つ叶という構造ができあがっていた。

 拾ってきてから1日後に、赤い方が目を覚ました。

「あ?気がついた?」

 時間があれば部屋を覗き込んでいた佐助は、やっぱり赤い方のことが気になっていたようで、目を覚ましたことに気づくなりその顔を上から覗き込んでいた。

「佐助。顔が近いぞ」
「いやぁ、まさかこんなところで会うとは思わなかったから、つい」
「こんなところで…と。佐助、ここはどこだ?忍び小屋の一つか?」
「…Quiet。耳元で騒ぐんじゃねぇよ」

 きょろきょろと周囲を見回す赤いのの隣で、青いのが目を覚ました。

「竜の旦那もお目覚め、となると、説明の二度手間が省けていいね」

 軽く言う佐助を、どういうことかと、赤い方はきょとんと、青い方は睨むように見る。
 まあ知り合いなら佐助に全部説明を丸投げしてしまうのが一番だと黙っていると、障子の向こうに人の気配を感じた。
 ここに近づく人間というと限られているから、叶だろう。
 影から手がふさがっているのはわかったのであけてやれば…叶の顔を見た途端、赤いのと青いのが揃って身構えた。

「ま、」
「初めまして」

 青いのが何か言いかけたのを割り込むように、叶は言った。
 それからじっと二人は、視線だけで殺せるのではないかと思えるほどに鋭く叶を睨み………………けれど、結局何も言わずに、浮かせていた腰を下ろした。
 少しだけ間を置いてから、佐助が手を叩いて重くなった空気を打ち払い、叶は水と薬を乗せた盆を佐助の側に置いて、俺の側に座った。

「で?状況は?」

 青い方が、時折ちらちらと叶を確認しながら言った。
 赤い方も、叶のことが気になるようだ。
 さっきの叶の態度といい、二人の間に何があるのだろうか?
 口を出せるような雰囲気じゃないので、そのまま黙ったまま様子を伺う。

「うーん…なんて説明したモノかねぇ」
「はっきりせんか、佐助」
「いやぁ、普通に言って信じてくれるか半信半疑で」
「なぁ」

 様子を伺うつもりだったが、なかなか話が進まないのを見て、言葉を割り込ませた。

「とりあえず自己紹介とかしてくんねぇか?
名前ぐらいわかってないとやりづらくてしかたねぇ」
「おお、これは失礼した。某は、」
「旦那」

 赤いのが名乗りかけたところで、佐助がそれを途中で遮る。
 何を、と言いつのりかけた赤いのの隣で、青いのが何かを心得たように、代わりに言った。

「藤次郎だ」
「…源三郎と申す」
「藤次郎さんに源三郎さんね。俺ァ、坂田銀時。銀さんでいいから」
「二人は、そこの旦那に戦場のど真ん中に転がっていたところを助けられたんだよ」
「おお!それはかたじけのうござる」

 ずいぶん時代がかった言い方で源三郎がいい、続けて藤次郎が礼を言う、とぶっきらぼうに言ってきた。

「ここはアンタの屋敷か何かか?」
「いいや。俺たちは、ちょっと間借りしてるだけだ」
「間借り…戦の最中でござるか?」
「どこの…とは聞かねぇほうがいいだろうな。が、地名だけでも教えてほしい」

 藤次郎のほうが、妙な物言いをした。

「何で戦の相手がわからないほうがいいんだ?」
「なんでって…」

 俺たちが戦っているのは天人。
 二人が天人だというのならば別だが、とてもじゃないがそうは見えない。となれば利害が衝突したりはしないはず。

「その辺りに関してはちょっと認識に差があるというか」

 なんと説明したものか、と、再び佐助が天井を仰ぐ。
 そうしていると、なんだか外が騒がしくなってきて、障子の向こうにまた影が現れた。

「白夜叉殿!敵襲です!急ぎ支度を…」
「わかった。そういや高杉はどうした?」
「総督は別働隊を率いて陽動に出るようです」
「あンのアホ。布団に縛り付けて大人しくさせとけ」
「無茶言わないでくださいよ…」

 つい少し前、大怪我を負ったばかりだというのに、休むという選択肢はないらしい。
 俺の爪の垢でも飲ませておきゃ、多少マシになるか?
 大人しく飲むとも思えなければ、飲んで効くとも思えない。
 馬鹿なことを考えていないで刀でも取りに行くかと立ち上がって、部屋を出て行く前に二人に振り返った。

「わりィな。今からここは戦場になる」
「相手は?」
「あ?天人に決まってんだろうが」

 何を当たり前のことを、と思ったが、どうやら源三郎と藤次郎はわからなかったようで首をかしげていた。

「ま、見せた方が早いか」

 何で二人がピンと来ていないのか。それを叶と佐助はわかっているようで、二人は源三郎と藤次郎を先導した。
 先頭を叶が歩き、その後ろを佐助が、そして源三郎と藤次郎が続く。
 そうして高見櫓まで二人を案内し…遠目に見える天人たちを見た源三郎と藤次郎は言葉を失ったようだった。

「なんと面妖な」
「It's crazy…化けモンだな、ありゃ」
「あれが、あまんと、でござるか?」
「そ。
ま、ざっくりいうと、今は人間とああいうのとで戦をしてるってわけ」
「おお…某が眠っている間に、そのようなことになっていたのか」

 すんなりと納得する源三郎。
 納得し切れていない藤次郎。

「俺たちは随分と寝惚けていたようだなぁ?」

 ねちっこく、藤次郎が佐助にいう。
 その視線を言葉にするとすれば、"後できっちり説明しやがれ"といったところか。

 近づいてくる天人の大軍勢に言葉を失っている二人。
 武器を持っているようだから戦力になってもらえれば、と思っていなかった訳じゃないが、見ず知らずで事情もあやふやな人間を巻き込む気はしない。

「ま、逃げたきゃ逃げな。見知らぬ人間を巻き込む気は…」
「Ha!この俺をそんな腰抜けのようにいわれちゃたまらねぇな」

 俺の言葉を遮って、藤次郎は止めるまもなく高見櫓から飛び降りた。

「当然でござる。行くぞ、佐助!」
「はいはい」

 同じように源三郎も高見櫓から飛び降り、叶から離れなかった佐助も源三郎に続く。

「おい!お前ら、たった三人で、」
「まあまあ」

 制止をかけようとした俺に、さらに叶が制止をかける。
 見えるのは地平線いっぱいに広がって進んでくる天人たち。それにたった二人で向かうなんて無茶だ。
 そう主張すれば、叶は静かに首を振った。

「むしろ三人には近づかないほうがいいよ」
「…は?」

 だんだんと遠くなる二人の背中を見る叶の目は、どこか懐かしげに細められていた。

 そして数十分後。
 叶の言っていた言葉の意味が、よぉぉぉぉぉぉぉくわかった。

「なんじゃあ、ありゃあ」

 あっはっは、と笑いながら、間借りしている寺の屋根に上った辰馬がそれを見て言った。
 ヅラもなんとも信じられないものを見るように、そのうねりを見ている。
 かくいう俺も、なんとも信じがたい光景に言葉を失っていた。

「二人ともはしゃいでるねぇ」
「はしゃいでるっつーか…」

 そんなレベルじゃねぇだろ、と叶の言葉に突っ込んだ。
 ばったばったどころか、局地的に竜巻が起こったように天人たちが吹き飛ばされていく。
 その現象を引き起こしている本人たちはといえば、

「みなぎるうぁあああぁぁああ!」
「OK! Let's get serious! Ya-ha-!」

とまあめっちゃノリノリで、疲れを知らないように敵に突っ込んでいく。
 援護?無理無理。アレに近づくとかあり得ない。
 皆の心も同じようで、寺から出ようとする人間はいない。
 高杉すらも、怪我のせいで幻覚を見たと勘違いしたのか、おとなしく寺の中に引っ込んでいった。

「なんか……色々あほらしくなってくるな」

 飲み込む天人がいなくなり、衝突し始めた赤と青をオレンジ色が止めに行くのを見ながら、俺は心の底からそう思った。

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