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それは突然だった。
つう、と生暖かい感触がした。鼻の下を親指で軽く拭うと、指に僅かだが、血が付いていた。




完全体になって、17日目。
セルゲームからすでに7回、地球には朝と夜がやってきた。

この地球にはすでに彼を、セルを脅かすことの出来る戦士はいない。
あの、孫悟飯との最後の打ち合いの後。この大地に立っていたのはセルだった。

セルの掌から渾身の力をもって放たれた熱を持った光線は、彼が生み出される目的となった者を父とした戦士と、その父の意思もろとも、この世からあの世へ2人を押しやった。


孫悟空。
その名前は、この響きは、彼の意識は極めて獰猛に高揚する。だが、もはや今となってはその対象を求めることは敵わぬことであるという絶望が冷や水代わりとなり、彼の理性を瞬時に呼び戻す。




すでにこの世にない、生み出された目的そのものを喪失したセルがそのまま地球を破壊しなかった理由を彼に問うたならば、彼はそれを「暇つぶしだ」とでも答えただろう。彼が、創造された目的を失った彼が、自ら見つけた世界との関わり方は、恐怖に引きつったヒトの表情を求めることだった。


何故、彼がそれを求めるのか。


それは彼に向けられる表情が、「それ」でしかなかったからだということを知るものはない。
生まれ落ちてすぐに、彼が「生きる」為に欲した対象は、彼に向けて恐怖の表情を、苦悶の表情を向けた。

そして、それを、彼は「快」の感情として受け入れた。



その表情こそが、その表情だけが。

死の恐怖を浮かべたヒトの顔。


それだけが。




彼と、世界の関係だった。




そして、彼はそれを、肯定した。


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