キリリク頂きました、桜和様へ。
小松×サトウです。小松→サトウともとれるかもしれませんが、あくまで小サト。














小松は思う。アーネスト・サトウという男は実に面白い。

初めて出会ったときの、日本という国に夢を抱き瞳を輝かせていた純粋な少年、という印象は最早なかった。
今の彼の、本心を隠した言動やその計算高さは、自分に通じるところがあると言ってもいいかもしれない。しかし、どうせ通じぬだろうと母国語で愚痴を漏らして、結局敵を作ってしまうような詰の甘さはあるし、普段は器用に立ち回っていても、ふとした瞬間に気が抜けて思わぬ失敗をすることもある。

それも若さか、だなんて思いもするのだが、兎にも角にも最近小松の好奇心の矛先は、掴みどころが無いようで分かり易い、あの年若き外交官に向いているのである。

それがアーネストにとって良いことか否かは別にして、だが。


「……小松さん。もう少し距離をとって頂けると有り難いのですが?」
「ああ、残念。それは無理な相談かな。…君の本心を聞くまではね?」

眉根を寄せたアーネストと、余裕を孕んだ笑みを浮かべる小松。その二人の顔は酷く近く、吐息さえ混ざり合いそうな程だった。
その距離感は、小松がアーネストを壁に追いやった上、壁に手をつき逃げられないようにしているせいだ。それでもどうにか逃れようと、もぞもぞと身体を動かしてみるアーネストだが、それが事態の好転に役立つことはなく。

「〜っ、本心も何も…尊敬に値する方だと思います。お世話になったことも忘れてはいません。感謝もしています、が」

動揺を隠していたのかもしれない。顔色こそ冷静だったものの、僅かにたどたどしいその言葉を聞いた小松は、はあ、とわざとらしく大きな溜息をついた。

「君は、馬鹿ではないと思っていたけど?」
「なっ・・・」

小松のあんまりな言い様に、アーネストは、心外だとばかりに顔をしかめた。だがそんなことに構うことなく小松が続ける。

「この体勢で、私のことをどう思うのか、って聞いたんだよ。…意味なんて、ひとつじゃない。」
「それは…」

アーネストは、自分の鼓動がばくばくとうるさく響くことに焦っていた。部屋はあまりに静まりかえっていて、この距離では小松にも既に聞こえているのではないか、と思ったので。

「それ、は。」

後に続けるべき言葉が、全く出てこなかった。首筋を冷や汗がつたう。
自分は、小松のことが好きなのだろうか。優れた人物であると思うし、彼には下手に取り繕っても無駄だと分かるぶん、一緒に居て過ごしやすい相手でもある。
しかしそれは恋愛感情とは違う。違う、はずだ。第一小松は同性であるのだし、そんなことを認められる筈もない。

(なのに、私はどうして、こんな…!)

こんなに戸惑い、緊張し、心臓まで暴れて。これは一体なんなのか。考えたくない思考がぐるぐると脳内を駆け巡る。
そしてアーネストの思考がいよいよショートしそうになった、その瞬間。


「アーネスト、居るー?食事の時間だってさー。」


不意打ちでかけられた襖ごしの声に、アーネストの肩は大きく跳ねた。


「おや、都くんの声だね。」
「と…とりあえず離れてください!早く!」
「ん、他に誰か居るのか?おーい、アーネストー?」

都の来訪を知ってなお自分を解放してはくれない小松にアーネストは一層焦って暴れるものの、そんなことは何も知らない都は、なんだかやけににぎやかだな、などと考えていた。

だからこそ、その襖は何の迷いもなく、軽やかな音と共に開け放たれたのだ。


「み、都…ええ、と。これは…!」

真っ青な顔のアーネストがいくら弁解を試みようと、都の眼に映ったのは部屋の隅で不自然に密着する小松とアーネストでしかなかった。部屋は痛い程の静寂に包まれる。
その静寂を破ったのは、このような状況においても顔色ひとつ変えない、小松の言葉だった。

「都くん、見ての通りだよ。後でちゃんと行くから安心して。」

「なっ!?小松さん貴方何を…!?」

見ての通りだなど、なんてことを言うのだ、とアーネストは思ったが、あまりの混乱にうまく言葉が出てこない。

そんなアーネストを他所に、都はそっと苦笑を浮かべ、そして「お取り込み中失礼しましたー…」などと小声で零しながら、もう一度襖を閉めてしまうのだった。

「Wait!This is a big misunderstanding!」

「おや、私は何かまずいことでも言ってしまったかな。」

必死に都へ呼びかけるアーネストの隣で、小松が白々しくそんなことを言うものだから、アーネストはもう怒りと羞恥で言葉を失うしかなく。

そんなアーネストを見て小松は、やはり彼は面白くて可愛らしい男だ、だなんてことを思っていた。




***



その後、食事の席に遅れてついた二人は、ぽつりぽつりと言葉を交わす。


「思わぬ邪魔が入ってしまって残念だけど、さっきのことはまた改めて聞かせてもらうことにするよ。」

「なっ…それは、遠慮させて頂きたい、ですが。」

「無理なのは分かっているでしょう、当然。」

「………いつか必ず貴方を出し抜いて、泣きを見させて差し上げますからね。」

「それは楽しみだね。期待はしていないけれど。」


やけにぴりぴりとしたアーネストと、酷く楽しそうな小松。周りの面々がそれを訝しげに見つめる中、都一人だけは、どこか居心地が悪そうに目を伏せていた。




絡む糸は蜘蛛のような



(どうやら、かかってしまったようで。)





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途中の英文は「待って!これは大きな誤解です!」という感じ。エキサイトさんありがとう。
私のBL小説において都の登場率が高いのは、私が大好きだからなのと、なんとなくそういうことに理解がありそうな女子だからです。

リクエストありがとうございました!宜しければ受け取ってください。

110514

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