紫姫と深苑くんと花梨でこどもの日ネタ。ゲストに乳母兄弟。
ほんのすこしだけ夢浮橋要素。







事の発端は物忌みの日、紫姫と、珍しく深苑くんも交えて、私たちの世界の話をしていたこと。
物忌みって感覚としては祝日とか祭日って感じだなあ、と。そんなことを口にして、そのまま、現代にある祝祭日の話になった。


「こどもの日、ですの?」

「こど…っ!おぬし、紫はもう立派な貴族の姫だと言っておろうに!」

そういえば二人にぴったりな日もあるよと、その日を口にしたのは間違いだったかもしれない。
慌てて謝って、なんとかフォローしようと試みる。

「私達の世界だと、深苑くんや紫姫くらいの年の子が主役の日なんだよ!あくまで年齢、ねっ?」

効果があったかは分からないけれど、ひとまず落ち着いた深苑くんにほっと胸を撫で下ろした。
本当は、どちらかというと深苑くんの方がメインなんだけどね、なんて言えないよなあ。

そんなことを考えているとき。

「神子様、その日はどんなことをいたしますの?」
「ゆ、紫!」

不機嫌になった深苑くんとは正反対に、紫姫はきらきらとした目で私に尋ねた。紫姫に甘い深苑くんは何も言えないみたいだ。

「えーっと、兜を飾ったり鯉のぼりを上げたり…?うーん…あっ!」
いいことを思いついた。いきなり声を上げた私に驚いて目を丸くする紫姫に近づいて、耳元でこっそりお願いをする。

「…それを、ご用意すればよろしいのですか?ええ、神子様。紫にお任せくださいませ!」

では、御前失礼いたします、とおじぎをして出て行く紫姫の背中を見送ると、すばやく深苑くんが私に向き直る。

「…紫に何を?」
「ふふ、ひみつ!でもね、」

「きっと二人にも、楽しんで貰えると思うよ!」


***


「おっかしいな…」
「やはりお前もそう思うか?イサト。」

夕刻、紫姫の館にやってきたのは、イサトと勝真の二人だった。
物忌みであった花梨の様子でも見てこようかと立ち寄ったのだが、邸の様子が少しおかしいことに気付く。

何せ、八葉が訪れたと知ればすぐにやって来て、「神子様のところへお連れしますわ!」と嬉しそうに出迎える紫姫の姿が無かったもので。

今日出迎えてくれた見知った顔の女房にそのことを尋ねても、可笑しそうな嬉しそうな笑みを返すばかりで返答は得られず、二人はもやもやとした心持ちのまま女房の後を追った。

案内されたその部屋の様子を見た途端に、そんな感情はどこかへ飛んでいってしまったのだが。

「へえ…珍しいこともあるもんだ。」

そう呟いたのは勝真で、その視線の先には床の上ですやすやと眠る、花梨、深苑、紫の姿があった。
あたりには色とりどりの紙がばらまかれ、そのいくつかは見たことも無いような形に折られている。

「あ、折り紙じゃん!」
「折り紙?」
「いつだったかは忘れたけど、花梨に教えてもらったことがあんだよ。紙を折って、色んな形を作るんだ。…ほら、これは鶴。」

足元に転がる紙の鶴を指先で拾い上げたイサトは、どこか自慢げにそれを勝真に渡す。

「なるほどな。よく出来たもんだ。」
「これなら俺も折れるんだぜ?」
「すごいじゃないか。割と器用だったんだな。」
「まあな。だから勝真には無理だな、うん。」

なんだと、と返した勝真の声が、思いのほか響いた。
もぞもぞと身体を起こしたのは花梨で、はじめは焦点のあわない目がはっきりとイサトと勝真を捕えた瞬間、驚きに目を見開く。

「イサトくんに、勝真さん!ごめんなさい、遊びつかれて眠っちゃったみたいで。」
「見りゃわかるさ。俺の方こそ起こして悪かったな。」
「なあなあ花梨、これは何を作ったんだ?」

勝真との会話を割ったイサトの声に花梨は目を向け、そしてイサトの手の中のものを見止めるとふわりと目を細めた。

「それはね、兜と鯉のぼり。」
「かぶと?鯉…のぼり?なんだよ、それ。」
「えっと…私の世界では、こどもの日、っていう日とかにそういうのを作ったりするんだよ。」
「へー。よくわかんねえけど、まあいいや!」

そんなイサトの言葉に、自分で聞いたのに、と思わなくもなかったが、花梨はそれを口には出さずにおいた。今やその場にいる誰もが、微かな寝息をたてる幼い双子に目を奪われていたので。

「…なんだかんだ言っても、まだ子供ですよね。」
「そうだな。やけにしっかりしているんで時々忘れそうになっちまうが。」
「俺の周りにだって親を無くしたガキ共なんて嫌になるほど居るけどよ、でも…こいつら、辛いとか寂しいとか、一切言わねえんだもんな。」

時々身じろぎをする二人の身体は酷く小さく、眠っているときばかりは年相応に見えて、その可愛らしさに胸が温まるような思いがした。しかし普段の二人の一生懸命な、必死にも見える強がりを思えば、途端に胸が痛むのだが。

暖かな夕日が差し込み、橙に染まる部屋はしん、と静かで。その空気を蹴散らすように、花梨が声を上げる。

「この世界では普通のことかもしれないけど、でも私、子供が子供らしくいられない世界なんて嫌です。…少しでも、いいから。力になりたいです。」

だから、勝真さん、イサトくん。これからも、よろしくお願いします。


そう言って笑った花梨の顔が、今にも泣き出しそうに赤く見えたのは、夕日のせいだっただろうか。




それはある物忌みの日のこと



(その世界に生きる人たちすべてが、のびのびと幸せに過ごせる日を、必ず。)









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ただのほのぼの話にするつもりだったのが、いつの間に。


110505


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