龍馬×サトウ

不特定多数×サトウ な表現があります。
見様によってはサトウ氏がビッチ。
どれかひとつでも苦手な方と、義務教育終了していない方は閲覧をご遠慮ください。















長らく外の世界とは隔絶され、独自の文化を形成するこの国で、所謂「異人」である私たちが大手を振って歩くことなど出来る筈もないことは理解していた。実質的には交渉をしている当人とはいえ、やはり国の代表だとまでは名乗れない私の様な者にとっては特に、だ。

加えて私に圧し掛かるのは、交渉を穏便に円滑に迅速に、我が国にとってなるべく良い方向に進めていかなくてはならないという、責任。それに手っ取り早く効果をきたすのはやはり"手土産"とも呼ばれる代物で、何を献上するかは相手によって実に様々だった。本当に、様々だった。

中には、私自身を望むような人も居たほどに。

初めてのときは、まさしく恐怖しか感じなかった。
相手は大切な交渉相手で、自分の行動ひとつで母国に多大な損失を与えることになるかもしれないのだ、と考えると抵抗さえ出来ず。生ぬるい舌が首筋を這い、汗ばんだ手が洋服の中をまさぐる。やけに丁寧に準備をされるものだから羞恥で頭はおかしくなりそうで、段々熱が燻ってくるのを止められない自分の身体に吐き気がした。終に貫かれ暴かれたときには、混乱と絶望で思考と感覚は麻痺し、その後の記憶など皆無に等しく。ただそのときのことを今思い出しても虫唾が走る程、衝撃的だったのは確かだ。


それが、今は、どうだろうか。

思わず苦笑を漏らした私は、何も身に着けぬ姿のまま、先日顔を合わせたばかりの男に後ろから抱きかかえられている。異国の文化に興味津々といった様子で近づいてきたその男は、出会って数日と置かずに私に告白をしてきた。どうせただの物珍しさだろうと思ったのに、そのあまりに真摯な様子に不覚にも胸を打たれてしまって。そのまま済し崩しに身体を許してしまったが、一夜明けた今になって後悔の念が湧いてくる。
居心地の悪さに思わず身じろぎ、その途端感じた違和感に顔をしかめた。その原因に気付いて、思わずため息を吐く。しまった、と思ったが、私が身を寄せている男はまだ静かに寝息を立てていた。起こさぬように、そろり、と腰を離す。

「っ、ん…」

ずるりと男の一部が脚の間から抜け落ち、同時に粘着質な液体が肌を伝った。しかしその程度のことではもう動じない自分に、もう一度ため息を吐きたくなる。
あの時から今まで、積みたくもない経験を積みすぎた。もう今は、よく知りもしない男のものを口に含むことにも、身体の中に受け入れることにも、微塵の抵抗も感じなくなってしまっていた。

昨夜、簡単に抱かれてしまったのもきっとそのせいなのだ。彼とならば、と。そう感じたのは偽りではないと信じたい気持ちもあるけれど、私などと想いを通わせたところで何があることもない。この身体は既に汚れきっているし、またこの身を必要とされる機会があれば私は迷わずこの身を売るに違いないだろう。

ふいに、誰かの指が自分の髪をさらり、と撫ぜた。
誰か、と言ってもこの部屋には現在二人しか居ないのだから、必然的に誰なのかは決まっているのだけれど。

「…龍馬さん。起きて、らっしゃったのですね。」

身体の向きを変え、意地の悪い人だ、と言えば、それはこちらの台詞だ、と返ってきた。

「疲れて眠っちまうほどの夜が明けた初めての朝だってのに、そんな辛気臭い顔してる上にため息まで吐かれるときた。…失敗した、とでも思ったのか。」

そう言った目つきは鋭く、光る眼光に心臓が跳ねるほどだったのに、主に見捨てられた飼い犬のような寂しげな風情も同時に醸し出していた。跳ねのけることなど、出来よう筈もない。けれど、

「私、は。貴方の思っているような人間ではけしてありません。」

絞り出した声は、震えていた。

「俺の思ってるお前さんってのは、どんなだと思ってるんだ?アーネスト。」
「それは…。」
「言っておくが、これでも人を見る目だけはあるんだぜ、俺は。」
「ですが、」

流石に自分の心に引っかかっている事実までは分からないだろう、と。そう言おうとした唇は、しかし彼が次に発した言葉によって、紡ぐ音を失った。

「お前さんが男とするのがお世辞にも初めてじゃないことも、それがどうしてなのかも大体の想像はついとる。それでも駄目か、それだけじゃ駄目なのか。」

「…なん、で、」

「慣れとることくらいは、反応を見ていれば分かるさ。あとは…その立場じゃ、お偉いさん共に無茶言われることがあってもおかしくなかろ。」

俺が見蕩れる程、お前さんは綺麗だしな

そんな甘い声が鼓膜をくすぐって、ぞくぞくとする。

一筋縄ではいかない男だと、なんとなくは思っていた。しかしだからといってここまで見透かされてしまうとは思っていなかっただけに、言葉が出ない。

「絶対、幸せにする自信はあるぜ。こう見えても顔は広いからな、もう二度とお前にそんな辛いことさせんよう、出来る限りやってみもする。…これについては、お前さんのためってだけじゃなく、俺が嫌だ、ってのもあるが。」

はにかんだように笑う男の顔が、滲む。涙を拭けるような布を探して手を彷徨わせれば、その手首はぎゅっと掴まれ、代わりに彼の唇が瞼に落ち、その雫を舐めた。

「アーネスト。俺はお前が心底俺を受け入れるまで何度も言う。愛してる、大切にする、誰にも渡せん。」

涙が止まらない、声を出そうとしても嗚咽が邪魔をして上手く話せない。
どうにも出来ないのがもどかしくて、せめて紡げない言葉を補うように、唇を彼のそれに合わせた。

数秒待って唇が離れた頃には、胸の震えも少し鎮まっていて。


「…私も、愛しています。」


口にしてしまえば実にあっけないその言葉を言うのに、私はあまりに時間をかけすぎたように思えた。


アザレアの花言葉


(答えはこんなにも簡単で。)





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アザレアの花言葉は「あなたに愛される幸せ/愛の楽しみ、恋の喜び」

110423


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