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「#エロ」のBL小説を読む
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店員に気付かれぬよう、静かに木製のドアを開け、埃っぽい倉庫から賑やかな店内へ。
マフラーとニット帽の隙間から視界一杯に飛び込む、カラフルな内装やキラキラした菓子に胸が躍る。

「魔女の像がハニーデュークスに繋がってるなんて・・・!」

「寒くないかい?辛くなったら直ぐに言いなさい」

「大丈夫ですって!元気100倍です!」

ハニーデュークスは魔法界のお菓子もあれば、マグルが知っているお菓子もある。そこがいいのだ。ハー/シー/チョコは定番だからこそ必ず買う。
私は手に取れない先生の腕を引き、子供受けしそうなディスプレイへ引き寄せられる。試食の綿菓子をつまみながら、足の裏がぴょんぴょん跳ねる。
店内はホグワーツの生徒と、明るいBGMで騒がしい。私の独り言は騒音に紛れる。喉の痛みを忘れ、声を張り上げ先生の名を叫ぶ。

「名前、楽しいかい?」

「うん!先生本当にありがとう!」

「はは、連れてきて正解だな」

「あっ先生、あそこの飴!」

「おっと」

店の奥でピンクに光る飴へ。私が腕を引く真似をすれば、先生も腕が引かれた動作をしてくれる。ああ、先生が生きている人なら。

「えっとお土産、課題手伝ってくれたお礼!先生好きなの選んで!」

「そうだな〜私はこれが好きだ」

彼が選んだチョコは、昔ながらのシンプルな板チョコだった。私もこのチョコレート好き!
高揚しっぱなしのテンションで、店内の騒音に負けぬよう声を張り上げる。喉がカラカラに痛み、喉を潤そうと唾を呑みこんだら酷く痛んだ。
その痛みを今だけ投げ捨て、籠に入れたチョコをオーディションしていく。買って帰れるのはコートのポケットに入る分だけ。
沢山は買って帰れない。じゃないと同室の友人達に怪しまれるからね。

「名前、会計が終わったら帰ろうか」

「先生お願い!最後にバタービール飲みたい!」

「・・・駄目だよ、もう帰った方がいい」

「大丈夫!テイクアウトにするから〜喉渇いたー」

「・・・・・もう」

困った様に先生が笑う、其れを妥協と受け止めた。会計を済ませ、熱気で暑い店内を出る。
外は真っ白に雪が積もり、店内で掻いた汗が一気に冷たくなった。来ている事が同級生にばれぬ様、マフラーを鼻まで巻きつける。

「バタービール飲んだら直ぐに帰るからね」

「はーい」

「・・・・名前!前!」

「げ!」

すると、前の方から教員のグループが。私が風邪を引いて学校に居る事は、友人達が報告済みだろう。
風邪を引いているのに外出してるなんて・・・・ばれたら速攻で帰されるだろうし、説教もおまけで付いてくるだろう。

「先生!こっち!」

「・・・・名前!」

慌てて路地へと飛び込む。三本の箒から離れて行く事を気にしながら、私は走るのを辞めない。一心不乱に路地の奥へ奥へ。
メインストリートをどんどん外れ、ホグワーツ生による活気が遠ざかって行く。
重い雪を蹴りあげる度、息が上がって行く。冷たい外気が肺を廻り、ヒューヒューする。

「はあ、はあ」

「仕方ないね、もう引き返そう」

「はあ、・・・・」

随分走って居たのかもしれない、村から少々外れている様だ。ふ、と気付くと遠くに佇む、不気味な建物がぽつりと見えた。
その建物を茫然と見つめ、つい先生、と彼に声を掛けてしまった。先生は笑みを口元に張り付けて、その建物を隠すように私の前に立つ。叫びの屋敷だ。
息を上げながら、叫びの屋敷に背を向けた彼を見上げる。冷たい外気が肺で暴れまわって苦しい。頭がガンガンと痛み出した。

「名前、もう帰ろう」

コートの下で、体がしんどいと訴え掛けてくる。お腹がぐるぐるして気持ち悪かった。先生がぼんやりと滲みだした。

「せ、んせ」

ぐわんぐわんとした頭が、どさりと雪の地面に着くまでは意識が合った。



「・・・・・・」

「名前!」

ぼんやりと意識が戻って行く。覚醒しながら、倒れた瞬間を思い出していた。頬に当たる、冷たい雪の感触がリアルだ。
体調もどうやらぼんやり気味だ。脳内はぐらぐら揺れ、体中熱く、リンパ腺が痛い。そして視界にはぼんやりルーピン先生だ。

「ルーピ、せんせ」

「大丈夫かい?気分は?ここは保健室だよ」

「あ・・・・」

カーテンで区切られた空間、消毒の匂いがする重くて厚い布団。重い瞼を見開き、どうしてここにと先生を見上げる。

「先生、まさか、先生が運んでくれたの?」

「違うよ。あの後、急いでネビルに助けを求めに行ったんだ」

「・・・・ネビル先生が」

「今日の事は、秘密にしといてくれるそうだ」

「そっか・・・」

先生の口元から笑みが消え、強張った様な落ち込んでいる様な目元。彼はストン、とベッド横の椅子へ腰を掛ける。
哀愁の染み込んだ目が、私を酷く後悔させる。先生に沢山迷惑を掛けてしまった。

「すまない、全て私の責任だ。君の体調が良くない事を知りながら、君を外へ連れ出した。教師として失格だよ」

「・・・・!先生ごめんなさい!私がいけないんです、先生は何も悪くない」

布団の隙間から手を伸ばし、先生へ求める。彼は手を重ねてくれた。込み上げてきそうな涙を飲み込む。今日は後悔の日じゃない、楽しい日だった。

「もう先生の事、困らせる様な事はしないから。バタービールなんてもう飲まない」

「・・・君のわがままは可愛い物だ、バタービールは何時飲んでもいいから」

先生の口元が少し綻んだ。お願いだから、もっと笑って欲しい。私は必死に先生を浮上させる言葉を探す。
なんで私、ゴーストにこんな入れ込んでるんだろう?心の端でそう思いながら、彼の笑った顔が見たくて。

「今日は本当に楽しかった。わくわくしちゃった」

「・・・・コラ」

「ふふっ」

「私も、今日は楽しかったよ。次は無いからな」

「はーい」

彼の目元が細まり、私を指差しながら意地悪そうに笑った。しんどい体調もなんのその。先生とこうして笑い合えるのって、なんだろう?なんだかとても。

「さあ、もう一眠りしなさい。あと数時間したらホグズミード組みも帰ってくる」

「うん」

「起きたらこのチョコレートを食べなさい。元気が出るから」

「・・・・先生。本当にありがとう」

「おやすみ、名前」

先生の手の平が瞼を覆う。スーと沈む様に、眠りへと落ちて行った。
ベッド横のナイトテーブルに置かれた板チョコレート。銀紙がキラキラと輝いている。
111017