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5

授業が終われば夕食までの時間、談話室で死に物狂いで課題に噛り付く。その形相は男子を引かせてしまう程らしい。
その後は課題を続けながら夕食を取り、素早くシャワーをした後、私服に着替えて天文台へ。

「天文台行ってくるー」

「名前〜その格好じゃ風邪ひかない〜?」

「平気!」

コーデュロイスカートにタイツとスニーカー、上はセーターだけ。これだけだと少々肌寒いが、あまり気にならない。
腕には羊皮紙と動物もどき・・・の本ではなく、魔法薬学の教科書を抱く。ルーピン先生には、魔法薬学の課題を手伝って貰って居る。

(あと2ページで終わるなあ)

そしたら他の課題を手伝ってもらえば。・・・うーん、今週の課題ってこれとあれだけだ。
ネタが無くなってしまう。課題を手伝って欲しいという理由が無くなったら、私どうするんだろう。理由が無ければ天文台に行かない方がいいのかな?
初めて会った日から一週間、毎日会いに行っている。先生は話し相手が出来て嬉しいと言っていたが、そろそろ一人で過ごしたいとか思って居るのかも?
―ブルリ
身震いをひとつ。暖炉が焚かれない廊下はヒンヤリとしている。ローブかコートを羽織ってこればよかったと今更後悔。
一週間か、本命の課題はまだ半分も終わっていない。少々焦り始めている。けれど、やっぱりルーピン先生の前で動物もどきの話しなんて・・・。
ああ〜でも、ホグズミードには行きたい!ハニーデュークスでお菓子を買いこんで、皆でバタービール飲んで。ああ〜。

「ルーピン先生〜!」

「名前、待ってたよ」

待ってたよ。そう言われると来て良かったんだ、これからも来ていいんだ、と自己判断で安堵する。その言葉は素直に嬉しい。
天文台の頂上階に足を踏み入れると、先生は何処から共なく現れる。簡単に設置した木箱に教科書を広げると、先生は当たり前の様に横に付いた。
課題を始めると、先生が横からアドバイスを入れてくる。ついでに冗談や世間話も。私はペンを走らせながら、始終くすくすと笑いが止まらない。

「もうすぐ終わりそうだね」

「はい」

ランタンの淡い光が揺れ、私達を照らす。私と先生は口元に笑みを浮かべながら、視線は私のペン先へ。ランタンの光に瞳も心も揺れる。

「これが終わったら動物もどきの課題だ」

「はい。・・・えっ?」

「来週末に提出なんだろ?早く取りかからないと」

「え?ええ?」

「ここに来た理由は動物もどきに付いて知りたかったから。違うかい?」

ペンを持つ手に力が籠る。私は間抜けに唖然と開いた口を先生に向けた。頭がぐるんと困惑して、なんで知っているんだろうと疑問ばかりが浮かぶ。
先生は片眉を下げながらふう、と笑う。わ、笑ってる。動物もどきの話をした後に、笑ってる。でも、なんで・・・。

「ネビルに聞いたよ」

「!!・・・ネビルせんせ〜っ」

「気にしないよそんな事。私は動物もどきを教える先生をしていたんだよ?」

「だって」

「寧ろね、そう気を使われる方が切なくなってしまうね」

「あ!」

心配は空回りだったのか。やってしまった!私は直ぐに謝ろうと先生に体を向けた。
するとランタンの光がひとつ大きく揺れ、先生の顔を照らす。彼はやはり半透明で、多くの光を浴びた先生は、向こうの景色がより良くみえてしまう。

「でもありがとう。君はとても優しい子だ」

「・・・・・・せんせ」

ルーピン先生の半透明の手の平が、そっと私の頭を撫でる。何も感じない、それなのに。

「先生の手って綺麗だね」

大きくて温かい。そんな嘘を紡ぎそうになって口を閉じる。嘘ではない、本当に大きくて温かい手の平だと思う。
先生の目がやんわりと細まった。先生がレアゴーストでよかった。私、この時間を一人占めにしたい。

「で、課題の方はどこまで?」

「・・・3分の2・・1です」

「半分も終わってないの?」

「っす」

先生がポカンと口を開き、呆れた様に眉を吊り上げた。

「先生、週末にホグズミード行きがあるのですが」

「!。なんでもっと早く言ってくれないの?」

「ハニーデュークスのお菓子好き?」

「そこの菓子は全て好きだ」

ほら早く始めるよ!と先生は木箱を叩く動作をする。私はなんだかおかしくて、口元がによによと波打ってしまう。
先生は私を急かしながら、黙っていた罰としてハニーデュークスのチョコレートを全種類買って来い。だなんて言いだした。
じんわりとお腹で何かが染みだした。私、今とても楽しくて幸せだなと思う。先生に会えてよかったと、しみじみ実感した。




それから一週間。先生は人狼という事もあって、動物もどきについて的確なアドバイスをくれた。
毎晩みっちりとしごかれ、言い付けの通り空き時間は課題に取り組む。もちろん他の授業中は控えたわ。
そんなこんなで、私は今、5巻目の最後の行に。名前を書いてピッ。

「お、終わったーーー!!」

「ギリギリだー」

「ホグズミード行けるーー!」

ペンを木箱の上に投げ、大の字に寝っ転がった。先生が小さくパンツ見えるよ。なんて言って来たけどタイツ履いてるし!と今は課題が終わった事を噛みしめる。
ああ、終わって本当に良かった。多分先生が居なかったら期限中に終わらなかっただろう。提出日は明日だ、なんてギリギリセーフ。

「ルーピン先生、本当に本当にありがとう。先生のお陰です!」

「いえいえ。お役に立ててこちらこそ」

私は床に背を付けながら、ふうと息を吐いて先生を見上げる。先生は最後のチェックと、羊皮紙に目を通して居た。
字を書き続けるのは意外と体力を使う。私は既に疲れきっていて、背中は床さんと仲良しで離れそうもない。少しだけ眠くて、瞼が重い。

「ねえ先生」

「ん〜?」

「課題、終わっちゃったけど」

「うん、お疲れ様」

「これからも先生に会いに来て良い?先生と居ると凄く楽しい、私」

「・・・・」

先生はゆっくりとこちらへ振り向く。ランタンの光が先生を照らし、まるで彼の体内が光っている様に見える。
彼の口元は柔らかく笑っており、私は暖かい息を吐く。

「当たり前だ。私も名前が居ると凄く楽しい」

「本当?迷惑じゃない?」

「迷惑なものか。明日も明後日も、君に会いたいと思っているよ」

「わー・・・嬉しい」

瞼がずっしりとしている。声も綺麗に出てこない。それでも体の奥でやったー!と爆発的に喜んでいる。
先生はいつかの、しょうがないなこの子って困った笑い顔で私を見下ろす。

「良く出来てる。もう部屋へお帰り。土曜日はホグズミードだろ?」

「うん。お土産沢山買ってきますね」

「楽しみだ」

ここで夜を明かすわけにはいかないもんな。重くなった体をよいしょと立ち上がらせ、課題を抱きしめる。

「おやすみ、名前」

「おやすみなさい、ルーピン先生」

課題も終わり、心配事が無くなった。週末のホグズミードに胸が躍る。先生のお土産、何にしようかな。
ずっしりとした足をのそのそと歩かせる。ああ、ベッドのふかふかが恋しい。

「は、っくしょん!」

大きなくしゃみが天文台の階段に響き渡った。
111016