×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
4

秘密を持つ事は酷く高揚し、特別な気分になれる。特に秘密にする事ではないが、私とルーピン先生の勉強会は秘密を共有している気分になる。とても楽しいのだ。
私はあの日から、毎晩先生に会いに行った。先生は教えるのが上手く、時には冗談で楽しませてくれる。
・・・課題提出まであと一週間だ。

「――であるからして・・、この肥料をこう」

バサバサ。鉢植えの中へ肥料が撒かれる。教壇でネビル先生が、効果的な肥料の与え方を実演していた。
カリカリ。羊皮紙の上をペンが走る音。私は一心不乱で課題に取り組む、薬草学の授業中に。
生徒達は静かで誰もおしゃべりしていない。先生の声と作業音、それに私のペンの音だけしか聞こえない。

「・・・・名前っ・・・名前っ」

「んん〜」

「・・・・こら、名前っ」

バサ、と動物もどきの本を捲る。今は調子が良かった、ペンがスラスラ動く。このペースなら、今日中に3分の1は終わるんじゃないだろうか。
先生の声がピタリとしなくなる。それに気付いているのに、気付かない。集中力ってそんなもんだ。

「・・・・名前!」

「え?」

友人に小突かれ、意識が戻る。は、と気付くと教室中の視線が私に向かっていた。

「ミス・名字。今はノートをとるんじゃなくて、僕の話を聞いて貰いたいな」

「あ、すいませんっ」

「グリフィンドール3点減点だ」

(う・・・っ)

複数の溜め息と共に、クラスメイトから呆れの視線が投げられる。私はしっしっ、と彼らに手を振った。
横に座る友人が体をひとつ近づけ、小さな声で話し掛けて来た。

「なんで授業中に課題やってるのよ」

「だって・・・夜はルーピン先生に会いに行くから出来ないし・・・」

「は?ルーピン先生に課題助けて貰ってるんじゃ無かったの?」

「だって無理だよ、やっぱり言えなかった。人狼の先生に動物もどきについて教えてなんて」

「なんの為に会いに行くのよ〜課題終わらないよ?」

「ルーピン先生って凄く面白いんだよ、先生も話し相手が数年ぶりで嬉しいって」

「でも今はゴーストと仲良くするより課題でしょ?取り付かれたんじゃない?」

「・・ルーピン先生は凄く優しくていい人だよ?なんだかヒョロっとしてて、先生の事困らせたくないって思えちゃうのっ」

友人がはあ〜、と呆れた溜め息を吐いて頭を抱えた。そこまで呆れなくたって。
むっとしながら視線を教壇に移すと、ばっちりとネビル先生と目が合ってしまった。

「ミス・名字。授業の後、片付けを手伝ってね」

慌てて両手で口を塞ぐが、時既に遅し。ネビル先生がニコリと笑った。友人も共犯じゃん!と彼女を睨むが、彼女は関係ないしと肩を竦めた。



「じゃあ、その鉢を温室まで一緒に運ぼう」

「はーい!」

しぶしぶ・・・なんて態度は先生からの評価が下がるので、私は元気よく返事を返す。
鉢を抱えながらネビル先生の横に付き、他愛の無い会話を始める。ネビル先生はおっとりとしていて親しみやすい先生だ。

「そう言えば名前」

「はい?」

「授業中なんの課題をやっていたの?」

「いえいえ、ノートを取ってただけですよ〜」

「こらこら。あんな分厚い本をペラペラめくって」

「・・・闇の魔術に対する防衛術の課題です・・・。大量に出たんです、動物もどきの」

はあ〜と天井を仰ぐ。あの細かい字列を思い出すだけで疲れちゃう。ネビル先生がニッ、と口角を上げた。

「動物もどきか〜。あそこは範囲が広いからね」

ネビル先生は懐かしそうにしみじみと頷いた。そう言えばネビル先生って・・・・。
それは好奇心か。もわ、と何かが込み上げる。ルーピン先生の横顔が頭を過ぎった。

「先生」

「ん?」

「もしもなんですけど・・・、人狼の人に貴方人狼でしょ。って問うのは非常識ですか?」

「は?人狼の知り合いでもいるのかい?」

「い、いえ!もしもの話ですもしもの!」

「そりゃ、人狼ってのは本人にとって喜ばしい事じゃないだろうし・・・・」

「で、ですよね!」

ネビル先生は眉を顰め、口角を下げた。不自然な質問を怪しんでいる様で、私の顔をまじまじと覗く。
そわそわして心地悪くなる。別に悪い質問じゃないのに、なんだか焦る。だって先生の目は私の心を読んでいる。

「こ、今夜の夕食は何かな〜」

「もしかしてリーマス?」

「?!」

「あ〜やっぱり。リーマスに会ったんだ」

違います!そう言いそうになったが、別にやましい事では無いし隠す必要は無い。私は縦に頷いた。
するとネビル先生の顔がぱあ、と晴れ、嬉しそうに目尻が下がった。

「彼、中々生徒の前に姿見せないからね〜そうかー会ったのか〜」

「ネビル先生は?」

「時々姿見せてくれるよ。調子どうだ〜って」

「へえ〜。ルーピン先生ってシャイなんですか?子供苦手とか?」

「そんな事ないよ。教師としての腕は確かだったし」

「じゃーなんで何時も隠れてるんですか?」

腕に抱いた鉢植へ、ふう、と溜め息を混じらせて吐く。鉢についた土汚れがふわりと舞った。
ルーピン先生と過ごす時間はとても楽しい。もし、先生の事をニックから教わらずに居たら、きっと先生に会う事無く卒業しただろう。
先生が他のゴーストの様に、頻繁に姿を現して居たら。一年生の頃から先生の良さを知れたのに。彼なら生徒中の人気者になれる筈だ。

「彼はただ静かに過ごしたいだけなんだよ」

「いつも一人で寂しくないの?」

「はは、そうかもね。だから君の前に出て来たのかもね」

「それは嬉しいけど・・・」

「・・・リーマスはね、生前とても苦労してたんだよ。随分波乱万丈な人生だった。だからこそ、今がやっと彼に訪れた平凡なのかもね」

「・・・隠居したお爺ちゃんみたい」

「そうだよ、お爺ちゃんなんだ」

ネビル先生が声を上げて笑う、私もつい釣られてクスリと笑った。胸の奥底で黒い靄が舞い上がったの、気付かないふりをして。