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ホグズミードは絶対に行きたい!その意気込みを腹に抱え、図書館から動物もどきについての本を借りてきたはいいものの。
古く日焼けしたハードカバーの、優に1000ページを超えるそれ。もうぐったり来ている。羊皮紙5巻分となれば、この本一冊だけでは足りないだろう。
夕食のチャウダーをスプーンですくいながら、引用出来そうな文を探す。ああ、邪魔だ、この分厚い本が無ければ美味しい夕食なのに。他の生徒は課題と共に食事してないってのに。
「もう心が折れそう〜」
「頑張って!私のチキンあげるから。それで彼ったらね・・・・」
「・・・・・・・・」
友人は齧ったであろうチキンを私の皿へ、そして隣に座る友人とおしゃべりを再開。なんて適当な対応なんだ。
もう明日に回しておしゃべりに参加しようかな。そう思い始めた時だった。
「あ、名前」
「ん?」
「上」
「ん?・・・あ」
文字を追う視線を友人に言われるがまま、上へと移す。すると頭上から階段を下りる様にやって来たのは、ニックだった。
今日の遅刻は決して彼のせいではないけど、いや、私のせいだけど。少しだけ恨めしそうに見上げている。
ニックはそんな私に気付くと、気品良く高らかに笑いながら私達のテーブルの上に座った。
「ご機嫌麗しゅう、お嬢さん」
「ニック今晩は。食事中だから首取らないでね」
はっはっは。ニックはそう笑いながらお約束に首をもいで見せた。友人は食事中にニックの首を見るのが苦手で、心底嫌そうに眉を顰める。
私はそんな二人を無視無視、と視線を本へ戻した。
「おやおや。とても分厚い本を熱心に読んでおられる」
「・・・読書が趣味なの」
「羊皮紙5巻よ」
「おや」
「今集中してるの」
二人から顔を隠す様に本を立たせる。すると、ニックが本の表示をまじまじと覗き出した。
しまいにはズボリと本を突き抜けて、私の顔の目の前でニコニコと。
「動物もどきについてですかな?」
「お、驚くからやめてよニック」
「昼間の罪償いを。動物もどきなら天文台に行くと良いでしょう。もしくは、と云う事がありますぞ。それにあそこは静かだ」
「え?」
「では。お嬢さん方」
ニックはまたも高らかに笑いながら浮かび、天井をぐるぐると回り始めた。昼間の罪滅ぼしって、驚かした事謝ってるのかな?憎いぞニックなんて思ってごめんなさい。
天文台か、丁度いい。食堂や談話室は人が居て気が散るし、図書館は眠くなるし。あそこなら人が来ないし集中できるかも。
「名前?どこ行くの?」
「天文台。ニックがあそこに行くといいって」
「天文台?」
「もしくはって事があるって。・・・・なんの事だろう?」
「それって天文台のリーマスじゃない?」
「え?」
「知らないの?!リーマス・ルーピン」
信じられないと言わんばかりに友人が眉を上げる。一瞬誰だっけ?と困惑したが、一年で習った魔法史を思い出す。
ホグワーツに通う者で彼を知らないとなると、常識無しとされてしまうだろう。彼や事件を知らずに、よくホグワーツに通えるな、と。
「そ、それくらい知ってるよ!ホグワーツの戦いでしょ?」
「あそこの天文台、彼が出るのよ」
「え?」
「知らなかったの?有名な話よ」
「へえ、彼ってゴーストになってたんだ。ホグワーツってあちらこちらにゴーストがいるから、把握しきれないよ」
「でも見た事ある人は少ないわ。目撃情報は2、3年に数回程度なんですって」
「あ〜」
それじゃあ知らなくても仕方ない。未だにホグワーツや魔法界に驚きや発見があるのだから、あまり現れないゴーストの存在なんて気が付かない。
「もしくは、ってそういう事ね」
「そっか。ル―ピン先生って確か」
こつんこつん。ローファーの踵が階段を鳴らす。窓の外は紺一色が広がり、不安を煽る様な静けさだ。先程まで居た賑やかな食堂が嘘みたい。
この時間に天文台に来るのは初めてだが、思っていたよりも静かで薄ら寒い。
(この辺でいいかな)
一番上の階まで上がり、人が居ない事を確認して窓の横に腰を下ろした。ランタンの光がゆれる。
木と埃の香り。光が届かない奥の方は真っ暗で、あの闇から突然ジェイソンが襲ってきたら漏らす自信がある。
床に本を開き、体育座りした膝の上に羊皮紙を広げる。静かだ、何も音がしない。時々聞こえるのは風の音くらい。
(集中は出来そうだけど)
ちょっと怖いな。ランタンを今一度持ち上げ、左右を照らす。お化けは怖い。しかしホグワーツに入学してからは、お化けはブラックな冗談を含んだ逞しい人達に変わった。
私、魔女なんだから怖がる事無いじゃない。部屋の奥へ目を凝らす。
(どんな人なんだろ)
授業で習ったのだから名前は知っていて当然だ。それに誰もが彼を称えている。しかし知っているのは名前だけで、容姿や人柄は知らない。
ホグワーツの戦いについての文献なら幾らでも出てるのだから、調べれば直ぐに分かるだろう。けれど、ホグワーツ防衛隊では目立たない方だったし特に気に留める事は無かった。
「・・・・ル―ピン先生、居ますか?」
ぼそり、小さな声で暗闇に問い掛ける。辺りはしんと重い静けさを保ったまま。
「は、くしゅっ」
ローブの前を閉じ、露出している膝を撫でる。膝掛けでも持ってくれば良かった。膝に乗せた羊皮紙へペンを走らせる。
どうせ現れる事はないだろう、ルーピン先生はゴーストの中ではレア中のレア。ニックももしくは、と言っていたし。もしくはは、無いかも、だ。
別に出てこなくったっていい。この天文台は落ち着いて居て人も来なくて、私にとっていい勉強場所だ。
無意識ながらにポケットへ手を突っ込み、持ってきたチョコレートを口へ投げる。お母さんが送ってくれたチョコレート商品だ。持ち歩きに丁度いいチョコボールのキ/ョ/ロちゃん。
長方形の小さな箱を傾ければ、カラカラと音が鳴り、手の平へコロンと落ちるチョコボール。
「それ、初めて見るな」
「―――っ!」
「おいしいかい?」
すると突然頭上から低く掠れた特徴のある声。男で、声のトーンからして若く無い、お父さん位の年の・・・。一瞬ニックや他のゴーストかと思った。
頭上を見上げると、天井の柱に腰掛ける人物が居るではないか。腕を組み、足も組んでいる。長い両脚はぶらんと宙に投げられて。
(・・・・天文台のリーマス)
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