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なになに。先生は若くて可愛いせっかくの奥さんとのこれからが失われて、其れが未練でこの世に残っているって?
胸の奥でもやりと湧いた闇、それは苦々しく美しくない。なんだろう、これ?なんだっけ?

(・・・・・・)

「・・・・名前?」

「・・・・ん?」

「眉間に皺が寄ってるよ。辛いのかい?」

「別に・・・・」

「風邪が治ったばかりなんだ、無理してない?」

「大丈夫です」

「屋敷しもべに暖かいココアを頼んでこよう」

「大丈夫、気にしないで」

腹に抱えた煙の様な闇。そに苦さをじっと感じ、無意識に顔が強張ってしまった。私はまだ若い。日本じゃ中学生、ポーカーフェイスなんて無理だ。
ああ、これは嫉妬だ。そう気付くが、私は急いで答えを隠す。何も気付かない、何も気付かない。

「先生こそ寒くないの?」

「ああ、寒さの類は感じないよ」

「でも先生、天文台は寒いでしょ?天国は暖かい所じゃない?」

「・・・・・・・」

「先生にその気があるなら、私協力するよ?牧師を呼ぼうか?」

黒い闇の正体、それが生まれた理由が分からない。気付いたのはこれが嫉妬の念で、私はその念が嘘だと信じたい。
何かから自分を守ろうとしている。じゃないと惨めに傷付くのだ。何故傷付くのかは分からない。ただ、自分を守る為に天邪鬼が口からこぼれる。

「この世に残る意味あるの?天国に行けば、奥さんに会えるんじゃないですか?」

「・・・・・・・」

口は災いの元と言うが、まさにだ。災いは私に振りかかかるだろう、後悔として。
目の奥がじわりと熱くなる。先生が天国に行ってしまえば、きっと酷く悲しみ、泣いてしまう。先生が居なくなるなんて嫌だ。
それなのに、どうして私はこんな事を言ってしまったんだろう?先生はきっと私の事が嫌になるだろう。優しい彼でも、少しは私を嫌いになるだろう。災いだ。

(私、なんて事言ったの!)

目を伏せ、後悔の波に浸かる。先生が未来永劫、この学校に居てくれる事を私は望んでいるのに。
長い長い沈黙が訪れる。先生からは何の返事も無い。彼はどんな顔をしているのか?怪訝な彼の表情は想像できた。首がピキリと硬直し、先生の顔を見れない。
どれだけそうしていただろう?静寂が続き、音も気配もしない。

「・・・・名前」

すると頭上から注がれる先生の声。と、共にシナモンの香りが鼻を掠める。

「ここは寒い。さあ、飲みなさい」

え?と俯けていた顔を上げると、先生は半透明の杖を持っている。杖の先にはふわふわと浮かぶマグカップが。
ゴーストの魔法も効くんだ・・・・とぼんやり考える。保健室のナイトテーブルにチョコを置いたのはネビル先生かと思ったが、ルーピン先生だったんだ。
湯気立つマグカップが手の中へ、ゆっくりと落ちて来る。中身はシナモン入りのココアだ。

「急いで屋敷しもべに作ってもらったよ」

「魔法、使えるんですね」

「ポルターガイストってやつさ」

「ありがとう、先生」

手の平にじんわりと暖かいマグ。先生の優しさに両目が大きく揺れ、唇がわなわなと震えた。涙だけは落とすもんかと、必死に涙を堪える。
そんな私に先生はパチリとウィンク。ラップ音の鳴らし方は分からないが、と笑う。

「せんせ・・・・めん。先生にはずっとホグワーツに居て貰いたい。で、も先生が天国を望むなら、協力するのは本当だよ」

「君は何が言いたいんだ?」

「・・・わかんない。でも、先生が心の残りな事、少しでも・・・」

「・・・・名前、いいかい?私が生きていた時の出来事は全て終わったんだ、ヴォルデモードや家族の事すらも」

「・・・・・・・」

「望んでも生前の生活は戻らない。それを悔いては居ないよ?今は第二の人生を歩んでいる」

「第二の・・・・。・・・ポジティブ・・・・」

「死んでしまった〜がっくり。ゴーストになってしまった〜がっくり。ではやっていけないよ」

彼は肩を項垂らせ、芝居がかった溜め息を吐く。そしてニコリと笑いかけるのだから、大人って大人だ。
シナモンの香りを含む湯気が乾燥した頬に染み込む。体内で生まれた黒い煙は、甘い煙となって生まれ変わる。
私だったら、死んでも尚この世に存在し続けるなんて嫌だ。泣き喚いて運命を呪う、タチの悪い悪霊になるだろうな。

「私、先生にとって一番の友達になりたいな」

「おっと?私は既にそう思って居るのだが?」

「先生!」

もう大好き!と抱きつきたい衝動をぐ、っと堪え両足をパタパタとバタつかせた。先生はまん丸と目を見開き、両口角をに、っと吊り上げる。
まるで赤ちゃんにいないいないばあをする様な先生の顔。先生のひとつひとつを胸に刻み込む。いつまでもいつまでも先生の事、先生って呼んでいたい。

「ねえ先生。後で私の友達連れてきてもいい?先生の事紹介したいの」

「・・・一人?」

「一人、一人!先生が私に取りついたとか言った子。先生が良い人って知らしめたいわ。友人って言うんだけど」

「そうだね、変な誤解は解いておきたいし、君の友人なら」

「やった!」

「連れておいで」

「うん!」

未だ湯気立つマグを置き、何度も先生にありがとうを。待ってって、と天文台の階段を駆け降りる。
人狼だからと言う友人に、先生の素晴らしさを教えてあげたかったのだ。彼女が先生の良さを知れば、私が天文台に通うのを咎めたりしなくなるだろう。



「天文台のリーマスに会えるなんてドキドキしちゃう!」

「なんだ。友人、先生に会いたかったんじゃない」

「だって誰も見た事ないのよ?それに彼は英雄だわ」

部屋に居た友人を連れ出す。理由を話せば、彼女は調子よく行く行く〜とオッケーだ。

「先生は人狼だけど全然怖くないよ。背が高くて指が長くて優しそうで〜」

「防衛隊の写真見た事あるからルックスは知ってるわ」

「え?」

むしろ知らない方が珍しいんじゃないの?なんて言われ、ホグワーツの戦いにもっと関心を抱けば良かったと、一年生の自分を叱る。
友人はマフラーに顔を埋めながら、天文台はこんなにも寒いのねと首を縮める。そりゃ風邪ひく訳だわ、と。
天文台へ続く階段に、二人分の足音が響く。先生と彼女が仲良くなってくれればいいな、と思いながら、置いて来たココアは既に冷めただろうと悔いる。

「先生〜来たよー」

「今晩はー」

暗い天文台に私と彼女の声が響く。白いマグカップが、ぽつりと寂しげに床に置きっぱなしだ。
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