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▼ 東京ラプソディ

傍から見れば、私達は恋人に見えると思う。だけど、私達には何もない。ただ遊びに行ってるだけ。
二人で遊びに行ってみたら、なかなか楽しいから。だから二人で遊びに行く。そんなポジションが傷付かなくて丁度いい。

「遊びに行かない?」

「・・・・・」

勿論、答えはいいですよ。

「日曜晴れだって。なんかさー公園とか行きたくない?井の頭公園なんてど?お花見の季節だし!」

勿論、答えはいいですよ。はい。じゃあ駅の改札に2時・・・あ、1時で。

(今度こそデート?・・・違うか遊びに行くんだよね)

バイト先の先輩である前田慶次先輩は、天真爛漫でとても大らかな人。男にも女にも、表裏なく平等に接する人。そんでもってそんでもって、少し女好き?
彼女でもない私と、休日に二人きりで出かける位なんだから、女友達も多いんだと思う。
はああ〜、期待するだけ損なのかな?だけど好きでもない女と、休日出かけたいと思うものなの?慶次先輩って結構。

「暇人・・・」

「ん?」

「なんでもないでーす」

石の階段を下りれば、売店が立ち並ぶ入口。花見をする人、絵を描く人、ジョギングや散歩をしている人、家族連れに恋人や友達、どっかのサークルの集まり。
池の水面がキラキラ反射して少し眩しい。高く聳える木々に、ここが都市だという事を忘れてしまいそう。
季節も丁度よく、桜が満開。少々人が多くて混雑してるのが難だけど。
大きな池の上には、沢山のカラフルなボート達。アヒルさんボートが水面にばしゃばしゃと飛沫を上げる。
ユラユラ揺れる水面の反射に、私のテンションもふつふつと上がって行く。

「慶次先輩、ボートですよ、ボート!」

「・・・あ、ああ。そうだなー」

「わあ、私ボート乗った事ないんです」

「へー、そー。ほら、焼き鳥焼き鳥」

「乗りましょうよ!ボート!」

私は慶次先輩の腕をぐいぐいと引っ張る。しかし、何故か慶次先輩の顔には不穏な色が。
どこか具合が悪いのかな?慶次先輩ってこーゆーのに飛びつきそうなイメージなのに。

「・・・乗りましょうよ〜ボートー」

「い、いや。さ。先に焼き鳥食ってから・・・」

「今乗りたいんです!ご飯は後後!」

「・・・嫌だー・・・」

「なんでですか?!もー!」

「やなの!やだったら、や・だ!」

「うぐぐぐ・・・!」

力一杯彼の腕を引っ張っても、慶次先輩は大人気なく、地面に足を踏ん張りビクとも動こうとしない。
なんでこんなに強情っぱりなんだ!もう!
私は歯を食いしばり、うぐぐぐ、と慶次先輩の腕を引く。なんだこれ、周りから見れば、おもちゃ売場から動かない息子と息子の腕を引く母親みたいじゃないか。

「どうして嫌なんですか!?」

「・・・俺、水が苦手で〜」

「はい、うそ!うそうそ!去年サーフィン行ったって言ってたじゃないですか!」

「・・・う〜」

「さ、乗りますよ。最初に漕ぎたいです私!」

いつもなら自分からリードしてくれるって言うのに、今日に限ってどうしたのかしら、先輩。
そんな疑問を浮かべつつ、私は先輩を連れて乗り場へ向かう。だって、ねえ?せっかく来たんだから乗っておきたいじゃん。ボート。

「なあ・・・」

「ん?」

「お前知らないの?井の頭公園の都市伝説」

「え?」

「井の頭公園のボートに乗ると」

「ああ、別れるってやつですか?有名だから知ってますよ」

「そ、だからさー」

慶次先輩が、ピタリと歩を止めた。

「俺、お前と別れたくないから乗りたくないわけ」

一瞬、何の音も聞こえなくなった。桜の花びらが風に舞う。って・・・はあ?!!

「え?・・・はああ?!!」

「この池、絶対別れるらしいぜ?!俺の友達も別れたし、ボートの係員も別れたって!」

「え、あの、ちょ。別れるも何も、私・・・」

「あ、そうだった。今まで言わなくてごめん。お前の事好きだから」

「は・・・」

「お前と居ると、つい言いそびれちゃって・・・もしフラれたら立ち直れないし、俺」

何だ!?何なんだ!?なにこれ?こ、告白?!こんな時に!?あ、でもいや、・・・今。慶次先輩お前の事好きって・・・?え、えええ?!
ぐるぐる頭が混乱する。う、嬉しい。けど混乱する、顔に熱が集まってくる。まさかこの状況で言われるとは。

「あ、え、その・・・」

「ちょっと場所とか、タイミングが変だけど。俺は本気で好きだよ」

「え、せ、先輩・・・」

「俺はお前と別れたくない、だからあのボートは乗りたくない!」

慶次先輩は少しだけ頬を染める。ああ、なんか夢を見てるみたい。

「俺とつき合って下さい!」

「は、はい・・・」

「ま、マジ・・・・?」

「うん・・・」

「やった「よく言った!!兄ちゃん!!」

「「え?」」

先輩にOKの返事をした途端。周りから「よ!この色男!」やら「おめでとー」やら「若いっていいねー」などの声が。
気付くと私達の周りには酔っぱらったサラリーマン達が、私達を捲し立てていた。他のカップルや若者が遠巻きに私達を見ながら笑ってる・・・。
そうか、今花見の季節だから酔ったサラリーマンが・・・。

「は、恥ずかしい・・・!」

「ちょっとな・・・。行こうぜ」

慶次先輩はサラリーマン達に軽く礼を言うと、私の手を引いて逃げる様に橋を渡った。

「今まで言わなくてごめんな、悩んだろ?」

「うん、でも嬉しい。私も先輩の事好きだったから」

「ありがとな」

橋を渡ると、丁度そこにはボート乗り場が。

「じゃあ、先輩。乗ろっか!」

「・・・は?!だって俺達・・・!」

「大丈夫大丈夫!私達は別れないから。・・・何?先輩は別れたいんですか?」

「んなワケねーよ!でもこの池は・・・」

「ボートじゃなくてアヒルさんの足漕ぎボートなら大丈夫ですよ!多分」

「え〜・・・」

「さあ、行きますよ!」
090406