▼ 絶望色
「うそ・・・!」
私の人生終わったと思った。
桜の花びらはほとんど散ってしまった4月上旬。やっとの思いでなんとか枝にしがみ付いている桜の花も、あと一回雨が降れば全て散ってしまうだろう。
桜はきれい。うん。でも、そんな事、今はどうでもいい。
「名前ー!どうやった?クラス分け!うちはなあ、A組やったよ」
「・・・はるひい・・・」
終わった。私の人生終わった。これからあと1年の高校生活。私は一体何を楽しみにこの学校へくればいいんだろう。
地球崩壊、天変地異、世界恐慌。私の頭の中では、何に例えればいいのか分からないほどの衝撃が。
「・・・私もA組・・・」
「ほんまあー?!やったーめっちゃ嬉しい!また1年一緒やな!」
「は、はは」
そりゃあ、仲のいいはるひとまた同じクラスなのは嬉しい。新しいグループを作る事に悩まなくてすむし、お弁当も一緒に食べれる。行事だってはるひと一緒。
(嬉しくない!!)
嬉しくない!嬉しくない!最悪、どうして!先生なんて大嫌い。
「あらー?あんま嬉しそうじゃないよ?」
「え?う、嬉しいよ!お弁当一緒に食べようね!」
「うん!」
表面ではなんとか笑顔でごまかして、頭の中は絶望で一杯。
(・・・志波君とクラス、離れちゃった・・・)
1年も2年も、志波君とは同じクラスだった。ただでさえ、無口で無愛想で、何を考えているか分からないような、取っつき難い志波君。
同じクラスと言う事だけが、志波君と私の繋がりだったのに。そんなのってない・・・!
世界の終わりよ、もうどん底。
(志波君・・・)
授業中に机へ突っ伏して眠る志波君。パンを食べてる志波君。運動会で張り切る志波君。友達と話してる志波君。恥ずかしそうに合唱コンの練習してる志波君。
教室という、限られたスペースの中で共に活動する事によって、観察できる彼の事。
もう見れないんだ。私のささやかな幸せの時間。宝物の時間は、もうないんだ。
クラスが分かれてしまうという事だけで、私の世界は絶望に染まってしまう。世界の終わりだ。片想いなんて、こんな気持ちなんて、苦しいならいらないのに。
接点が無くなってしまう。告白する勇気なんてない。ただ、彼の事を見て居たいだけなのに。
「ああ、・・・野球部のマネにでもなっとけばよかった・・・」
「う?なんか言いおった?」
「ん?なんでもないよ!教室行こうか!先生誰かな?」
「うちは若ちゃんがえーなあ」
「そうだね」
思い出すのは、夏、暑い日の授業。志波君は机に頬杖をついて、青い空と白い入道雲に覆われた、じりじりと焼け付くグラウンドを眺めていた。
私は静かに、爆発しそうなときめきと高揚感の中、ただひっそりと志波君の背中を見つめていた。
もう、それが見れないんだなあ。悲しいなあ・・・。
「おい志波あ!お前のクラスこっちだぜ!」
「針谷・・・」
「俺と同じ。Cだってよ」
「・・・A組じゃないのか・・・俺」
「は?」
「・・・・最悪だ。つまんねえ」
俺の人生終わった。これから何を楽しみに学校へ来ればいいんだ?
090325