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▼ 歩いて帰ろう

「いってきまーす」

なんて言うのはめんどい。だって朝からそんなに声出ないし、お母さん台所だから遠いいし。いつも通りに私はローファーへ足を突っ込む。
すると台所から「外は雨よー」とお母さんが叫んだ。・・・わかってるって。目覚まし止めた瞬間から、外の雨音に目覚めは最悪だった。
重いドアを体重任せに押し開け、めんどくさい雨を確認してビニール傘を開く。
携帯のディスプレイを見て溜息。普段より10分早く家を出た。普段は自転車で駅まで行くのだが、雨の日はバスで駅まで行く。
しかし雨の日のバスといえば混んでるから座れないし、独特な匂いだし、濡れた傘で結局スカート塗れちゃうし。あまりいいものじゃない。
こんな時、車で送り迎えしてくれる彼氏がいたらなあ・・・なんて。

「はよー」

すると後ろからチリンチリンと、ベルに呼び止められた。錆びたブレーキをキイ、と効かせて自転車が止まる。

「あ、おはよ。早いね、朝練?」

「うん」

彼は所謂お隣さんで、これまた所謂幼馴染という存在だ。小中同じ学校で、高校は違えどお隣さんには変わりない。まるで少女漫画が原作のドラマみたいだ。
彼は自転車圏内の高校だが、私は電車で通学の高校だ。こうして朝に顔を合わすのは珍しい。
しかし、こんな朝から立ち話をしている暇はないのだ。彼を横目に私はバス停へ歩を進めると、彼は自転車を押して横へ付く。じゃあ、何か話題を提供しないとね。こちとらの事情で。

「今日学校終わったら佐助の家行っていい?」

「いいけど?」

「この前の続き貸して」

「あーはいはい」

彼は幼馴染だけれど、家の周りは学区の関係で幼馴染ばかりだ。しかし、中学高校と年を重ねる事に幼い頃の友達とは遠縁になってしまった。まあ、そんなものだ。
ただ、彼だけは未だに中学の頃と同じ関係なのだ。たまに会えば漫画やCDの貸し借りをしたり。そんなのを何回も繰り返して、私は切れそうな縁を繋いでいる。
その理由を、まだまだ答えには出来ないけどね。

「あ、バス来てる!」

「おお、走れ走れ」

「じゃあね!」

は、と視線を上げるとバス停には数人の列と赤いバス。やっぱり雨の日は混むなあ。じゃあね、と彼を見上げると、彼の顔には傘の影。それにドキっとしたり。
けれど、あのバスを追う為に私は走り出す。そして今日も一日が始まるのだ。
バスに飛び込むと、プシューと音を立てて直ぐにドアが閉まった。少し曇ったガラスの向こうに、ビニール傘を差した彼が小さく手を振っていた。

(はあ・・・)

私も彼と同じ高校行きたかったな。
私はため息を心の中で盛大に吐きながら、物思いに耽るため瞼を下ろした。吊皮にはしっかりと掴って。
彼に借りる約束をしたマンガはそろそろ最終巻だ。読み終わったらどうしよう。新しいCD買った?ってまた聞こうか。
それとも、某長編少年漫画をまた一巻から読み返そうかな?けれどあれはもう3週目だ。あ、この前買ったDVD押し貸ししちゃおうかな。
胸の中にもやもやとしたムラ。心はまだ未熟だもん。仕方ないよね。
彼は彼の学校で今日を過ごす。私の知らない女友達なんかとおしゃべりしたりしてさ。もしかしたら彼女が居るのかも知れないし。
けれど今はこれでいい筈。どうにかしようなんて、そんな方法知らないもん。
そんな事を考えて、自分青春だなーなんて外を眺めたら、雲の隙間から光が射した。あ、午後は晴れるかもしれない。







ゆっくりと瞼を上げると、まず先に私の太ももが視界に入ってきた。ああ、寝てしまっていたのか。今日は体育もあったし疲れたもんね。

―ガタン、ガタン・・・

抱き枕の様に抱きしめていた学生鞄を開放し、床に置く。キョロリと見渡せば疎らな乗車率だ。
何トンもの鉄を車輪が支え、線路を引く音。二つ奥のドアの前で女子高生が五月蠅いおしゃべり。前に座るサラリーマンは疲れた顔。今から地獄に行くみたいだ。
陽は一日を終えようと西へ傾いている。その光はオレンジとピンクを混ぜ合わせたような、私の好きな色だ。その光は見下ろす町、ビルやマンションを照らしていた。
私も一日の大半を終え、陽の様に西へと傾く。わけではなく家路へ向かう。
小さく伸びをしてあくびを一つ。今日も一日お疲れ様、疲れたよーなんて心の中で自分と会話する。

(あー晴れたなあ・・・)

窓の向こうの景色は朝とは比べ物にならない。天候が荒れた翌日はよく晴れるが、まるでその翌日の様だ。
暖色の空に小さな雲の塊。丸い夕陽の光を浴びて、白い雲は面影もなく不思議な色をしている。
雨は面倒だから、晴れれば嬉しい。学校も終わったし、あとは自分の為の時間だ。鞄から携帯オーディオをとりだしイヤホンを耳へ押し込む。
シャッフルにしたら、運よく好きな曲が一番目だった。これは彼から強引に借りたCDだったな。
こうなったらもう気分は上がってしまって、耳から来る振動に体も踊りだしそうだ。だって、後は電車を降りてバスに乗って、彼の家に行くだけだもの。
改札をタッチ一秒で通り抜け、心躍らせるままバス停へ早歩き。列に並ぶと丁度よくバスがやってきた。塾の広告を一面に出したバスは水色だ。
感じる物、目にする物、耳にする物がひとつひとつ私の中で積み上がっていく。それは彼に会う為の高揚感として重なっていく。
水色のバスにいい演出じゃない!なんて親指をグとポケットの中で立てる。運転手は無愛想だったけれど気にならない。
彼に会える。それだけでかったるい帰り道さえ素敵なものになってしまう。そう、私は彼の事。

「ただいまー」

あっという間の帰り道を終え、鞄を置く為に一度私は家に帰る。ついでに押し貸しする為にDVDかマンガ持っていこう。なんか貸しとけば一週間以内にはまた会えるから、さ。

(ん?)

ローファーを行儀悪く足で脱いでいると、二組の男物の靴に気がついた。一つはお父さんのだ。あれ、もう仕事終わったのかな。
すると、リビングからお父さんの話し声が聞こえてきた。どうやら誰かと電話しているようだ。お母さんは夕飯の買い物かな?
それより早く佐助の家行こうっと。階段を上がりながら携帯を開くと、メールが一通。何時に家来るの?と彼からだ。

(おお、テンション上がる!)

舞い上がったまま自分の部屋へ飛び込むと、彼は私にキスをしていた。

(・・・え?)

なんで、佐助が私の部屋にいるの?!あ、玄関のあの靴、佐助のか。
紺ソックスを履いた両足でフローリングに立ちつくす。窓は開いて居て、夕方と夜が丁度よく混じり合った色をしている。どこか不安になるような、そんな色。
彼はベッドに眠る私にキスをしていて、薄暗い部屋と窓の景色に思わず綺麗だと思ってしまった。
ああ、そっか。

(そうだった)

やっと私は答えの答えを知れたんだ。ああ、そっかそっか。
私は一つ息を吐き、彼と私に背を向けた。この部屋から、出ていかなきゃ。邪魔しちゃ悪いもん。
私は廊下に向かって一歩を踏み出し、なんとなくもう一度だけと振り返った。だって、このメール今来たのよ。佐助は、何をどう思ってこのメールを打ったんだろう。そう考えてみたら、胸に何かが引っ掛かった。
彼は私の髪を撫でながら、またキスを落としていて、ああ、なんだかドラマみたいだって、そう思う。そしてこれからの佐助を思うと、頭の中、可笑しくなりそうだ。ごめんね、泣いたってどうにもならないよね。

そうして、私は静かに部屋を後にした。
100405
title:)斉藤/和/義
主人公は朝のバスで事故死