※学パロ ぬるいような空気が、薄墨色に染まっている。 少し前を行くレッドは始終無言で、私も、何も話さなかった。話すことなんかなかった。 低い街路樹が赤いちいさな実をたくさんつけていて、思わず気をとられたのに今日は、レッドとの間がひらかない。いつもならあっという間に開いてしまうのに。 歩幅も、黒いローファーだってレッドの方が大きい。その差にびっくりしたのはいつだったっけ? いつもならレッドに聞けるのに、歩みの遅いレッドには聞けない。 誰もいない、通い慣れたはずなのにどこかよそよそしい道と、そこを歩くレッドを見ていたら、ばかみたいに涙腺がゆるんだ。 「…なまえ…?」 だめ、振り返らないで。そう思っても、妙に勘の鋭いレッドは、さっきまでの沈黙がうそみたいに振り返って、たまらずに私はうつむいた。 「……ごめ」 「だめだよ」 「っ…」 「謝らないって、決めただろ」 「……うん」 ぽた、ぽたと乾いたコンクリートにしみ込んでいくのは悲しみなのか、それとも喜びかもしれなかった。だって確かにこれは、喜ぶべきことなんだ。 「なんだかね……不思議な感じなんだ」 「うん」 「嬉しいはずなのにね」 「…うん」 春が出会いの季節なら、別れの季節でもあって、ただ私たちは歩む道がちがうだけだった。ただそれだけのこと。 「レッドは…、寮だっけ?」 「アパート。借りた」 「あ…そうなんだ」 受かった、よかった、ってお互いにお互いを抱きしめあったあの日が遠い昔みたいに、壊れやすいクリスタルみたいにきらきらして見えた。 レッドのローファーが徐々に近づいてきて、やがて身体は人肌のぬくもりにつつまれる。 「来てくれればいいよ」 「…?」 「なまえが。オレのとこに」 ぎゅうっと自分の肩口に私の頭を押しつけながら、レッドはささやくように言った。頭に添えられた手がゆるゆると私の髪を梳くから、さらに悲しくなった。 「…レッドは?」 「ん…?」 「レッドも、来てくれるの…?」 怖かったからじゃなくて、私は今この瞬間に、このひとが本当に好きなんだって気づいてしまって悲しかっただけ。ただそれだけでふるえた声が出た。 弱々しすぎる私の声に、レッドが笑ったような吐息を吐いた。 Thanks;xx 101126 |