レッドって、予測不能だ。 することなすことから始まって、表情から考えてることまでさっぱり、意味不明。私にはわかんない。 今だってきゃいきゃいとかわいい女の子たちに囲まれてるくせに、じっと私を見てくる。私がその群れのなかにいるとか、または偶然居合わせたから助けを求める、とかならまだわかるけど。 ただ何も言わず、少し離れたベンチに座った私をじっと見つめてくるだけで、その瞳に含まれるものは……私にはわかんない。少なくとも、助けではない。レッドが私に求めてるものは。 あまりにその瞳がしつこいのと、あまりにその女の子たちが騒がしいから、私は読んでいた本をぱたん、と閉じた。 「…ねぇ、悪いけどそういうのは、別のところでやってくれない?本に集中できないから」 さっきから開いてるだいすきなファンタジーが、ちっとも進まない。 耳障り、目障り、おまけに感覚にまで障る。…とまでは言えなかった。一斉に振り返った女の子たちの視線が怖い。あれ、私、恨まれるようなこと言ったっけ? 睨み合う……というよりは一方的に私が睨み付けられる静寂の中、レッドが静止した女の子たちの間をすたすたと過ぎて、すとん、と私の隣に腰を下ろした。 ぽかん、と私も、女の子たちも睨むのをそっちのけで、そんなレッドを見つめた。 「…まぬけな顔」 レッドは私だけを見て、真顔で言った。とっさに反応の取れない私はまばたくだけで、そうしたらレッドはまぬけな私の顔から、私の手元の本に視線を移す。 「…なまえ、さっきから進んでないね」 「…だれのせいだと思ってるの」 「自業自得、…っていうんだろ」 だれに聞いたの、そんないらないボキャブラリー…まあどうせ、グリーンだろうけど。私は真顔のままのレッドを睨む。女の子たちは相変わらず静止したまま、私とレッドを見つめている。 さっきよりずっとたくさんの視線が、痛い。いつの間にか役目がすこし入れ替わってる。私がレッドを見、女の子たちが私たちを見る。 レッドだけは相変わらず、私だけを見る。本から顔を上げたレッドは、私のにらみつけにようやく真顔を崩した。 「…なんで、怒ってるの」 「レッドが失礼なこと言うからでしょ」 「失礼なこと?」 「自覚ないの?」 何のことかとびっくりしてるレッドは、本当にわからないらしい。まさか誉めてるつもり、だったとか?まさか。 「レッド…ちゃんと日本語わかって使ってる?」 「なに、突然」 「え、だって…」 「なまえこそ、それって侮辱だよね」 あ、そういうのはわかるんだ…と妙に納得したら、急にいたずらっ子みたいな笑顔を浮かべたレッドが、本の表紙に置かれたままの私の手に手を重ねて、言った。 「好きだよ」 「……は?」 私だけじゃなく、さっきよりちょっと遠巻きに私たちを見ていた女の子たちからも息を呑む声が聞こえる。見開いた目の先で、珍しく笑みを浮かべたままのレッドの顔が、ぐいと近づいてくる。 ちょっ…!思わず身体を引こうとしても、重ねられた手がそれを阻む。 「ちょ…っ、レッド!?」 「なまえ、愛してる」 「何言っ…ていうかやっぱり言葉の意味、わかってないんじゃないの…っ!?」 「うん、わからない」 だから教えて、と言った視界いっぱいのレッドの笑顔は、確信に満ちていた。 もう女の子たちなんて私の意識にも入らなくなっちゃって、思わずぎゅうっとつぶったまぶたの裏、手のひらの下にある本の題名がくちびるに触れた熱と一緒になぜか浮かぶ。 だけど、それも一瞬のこと。 101124 |