意外なことに、コーンは寒がりではなかったらしいと知ったのはつい最近のこと。女の子にありがちな冷え性の私の方がずっと寒がりで、そしてなお悪いことに…コーンよりずっと寂しがりだった。いつも会いたいのは私の方だし、会ったら手をつなぎたいのも私ばっかり。 ジムリーダーのときも、ウエイターをしていても、とにかくコーンはモテる。そんなの片想いだった頃から知ってたし、私だってそのひとりだったはず。けれど一度「トクベツ」に選ばれてしまえば欲は尽きなくて…ほんと、私ってヤな女。ほんとにコーンは私をすきでいてくれるのか知りたいなんて…こんな、どろどろした真っ黒な私なんて見せたくない。きっと嫌われちゃう。 だってコーンはすらっとしたシルエットも、すっと通った鼻筋も涼しげなひとみも、どこを取ったって完璧なほどきれいなひとだから。 だから、私はがまんする。ひとりきりの冷たいコーンの部屋で、暖房もつけずに、ただジムリーダーのバトルフィールドからコーンが帰ってくるのを膝をかかえて待つだけ。 …指先が、つめたい。だんだん日が傾いて、闇が近づいてくる。 「…何やってるんですか」 「あ…れ、コーン…?」 かちこちと静かな時計の音に耳をすまして何時間経ったのか、まっ暗だった視界が急に明るくなったものだからびっくりして見あげたのと、私の目の前に立った人影がくちをひらいたのは同時だった。しゅうっと光彩がしぼられるまでまぶしくてわからなかったけれど、もしかしなくてもコーン、怒ってる…? まばたきしてもコーンの眉間のしわは消えてくれなくて、ばかみたいにイスの上でひざを抱えて見あげている私に、つららのようなことばが降り注いだ。 「ポッドに聞きました。暖房もつけないで半日も、こんな寒い部屋のなかで何をしていたのかを聞いているんです」 その突き放すような言い方に、ずきっと心臓に痛みが走る。自分の部屋で半日も待っていられるなんて、やっぱり迷惑だったかな。もともと、だめもとで告白したらもらえた返事だったし、こんな彼女なんていらなかったよね、コーンは。 コーンは、私になんて会いたくなかったよね。いつだって会いたいのは私ばっかりで。 じんわりと出てきたなみだをぐっとこらえた。さすがに、ここで泣く女にまで成り下がりたくはなかったから。精一杯の虚勢を張ってみてもふるえる声で、どうにか私は口角を持ちあげる。 「…別に、何もしてないよ」 「…何も?」 「うん、何も」 コーンの片眉が、うそをつけ、というように上がる。負けるもんかと私も眉をよせてにらみ返した。上からのきれいなひとみの圧力と、下からの見あげる私なんかの圧力じゃあ私がぺしゃんこになるのは火を見るより明らかだけれど。 しばらくそうやって見つめ合っていたんだけれど、私たちの視線の交わりはぜったいに、まちがっても恋人同士のそれじゃなかった。それなのに、きれいなネイビーブルーのひとみに映る自分を見ていたら耐えられなくなってしまう。 やっぱり私ばっかりコーンをすきなんだ。…わかっては、いたのに。 「…じゃあ、ごめんね。私帰る…」 とっさに立ちあがったつもりだったけれど、コーンの言うとおり暖房もつけない冷え切った部屋で半日じっとしてたから、身体はがちがちに固まっていたみたい。うまく働かずにぐらりと倒れ込んだ身体が、熱いほどのぬくもりに包まれたのは意識できないくらい一瞬のことで。 「まったく…とんだ意地っ張りですね、きみは」 「う…、だって、コーンが…」 「はいはい、泣かない。子どもじゃないんですから」 コーンに抱きしめられている。正確には抱き留められたのだけれど、背中にまわったまま緩まないその温もりがうれしくて、がちがちに強ばった身体といっしょに、単純で意地っ張りなこころまでもとけ消えていくのがわかった。 だって、だってと本当に子どもみたいにくり返す私を抱きしめたまま、コーンは私のあたまにあごをのせてちいさくため息を落とすと、そのまま耳元でそっとささやいてくれた。 「大切なひとに風邪をひいてほしくないから怒ってるんだ。…これならさすがにあなたでも、わかりますよね?」 20110924~20111025 思わせぶりな偶然/sugar&spice |