むあっとした空気が、地面からゆらゆらのぼってきてる。しゅわしゅわと、そこここでセミが鳴いている。 日はかたむいているにもかかわらず、まだまぶしいやら暑いやらで眉をひそめながら、すこし前を行くトオイくんに導かれるままあるいた。トオイくんはおつかいを頼んだ本人だから行き先に見当がつくみたいで、足取りに迷いがない。 しばらく、温室よりよほど蒸し暑い外気に私たちは会話もないまま進んだ。 「あっ、トオイ兄ちゃんだ!」 脈絡なく、甲高い声がセミの大合唱を切り裂いてとんくるのへ、私もトオイくんもびっくりして立ち止まる。 声の主をさがしてきょろきょろする私とちがって、地の利があるトオイくんはぱっと一ヶ所を見つめた。つまり、ビル街の立ち並ぶこの通りで、まわりではなく上を見上げた。 あわててそれに倣うと、背のたかい建物のベランダのひとつから、虫とり少年くらいの子どもたちがたくさんこちらを見ている。 トオイくんが、つないでいない方の手をふった。 「トオイ兄ちゃん、どこ行くの?」 「そのひとだれ〜?」 重ねて尋ねられたことばに、上から仲間内でこそこそと小突きあう声がふってくる。ばっか、カノジョに決まってるだろ、空気読めよ! おもわずトオイくんをふり返ったらトオイくんも私を見ておかしそうに笑うから、なんとなく、ぴんときた。あの子たちはもしかして、私がトオイくんと出会ったときの…? じゃあね、と声をかけてトオイくんが歩きだす。子どもたちはいっせいにバイバイと手をふってくれた。 「…前に、ちょっとしたきっかけで知り合ったんだ」 「ちょっとしたきっかけ?」 「野生のポケモンとケンカしそうになってたのを仲裁しただけなんだけど」 私が聞こうとするのを見越したように、トオイくんはゆっくり、歩く速さにあわせて切り出す。襲われてた、と言わないあたりが、ポケモンのことばを調べているトオイくんらしかった。 聞いているうちに、野生ポケモンのねぐらにうっかり入ってしまってにらみ合う子どもたちとジグザグマ、そしてその間にはいるトオイくんが脳裏にうかんで、おもわず笑ってしまった。 トオイくんが、ちょっとむっとしたような顔でふり返る。 「僕、なにもおかしいこと言ってないと思うんだけど?」 「うん、…でもなんかおかしくて」 「…なまえのツボって、変だよ」 ずっと思ってきたことを先に言われてしまって、こんどは私がむっとする番だった。 110717
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