気恥ずかしさとか、ドキドキしたりだとか(京子ちゃんによると、「初々しさ」っていうらしい)、そういう気持ちを感じたことがなかった。 私にとってツナは、時に兄であり弟であり、同い年の男の子であり、いわゆる幼なじみの腐れ縁だった。 だから、今からもう4年も前のことだなんて信じられないけど、私たちがまだ中学に入りたての初夏、ツナから京子ちゃんへの気持ちを打ち明けられたとき、私は単純に応援したんだ。 ……んん、ちょっと違うかもしれない。 私は、単純に応援「しようと」した。時に、私はツナの姉だったから。任しておいてって意気込んで、小さい頃から一緒にいた、大事な弟のために一肌脱ぐぞって必死になってた。 それが崩れたのは、いつからだったんだろう…。 ちょうどその頃ツナのところに来た家庭教師のリボーンは、4年しか経ってないというのに今ではもうすっかり大人になっていて、そして私に言った。 『気付いてなかったのか、お前。他人の事情には首突っ込んでくるくせにな』 不器用な女。 そう言って口元に笑みさえ浮かべて。気付いてないのは、お前とツナくらいだ。とのたもうた。あの赤ちゃんの片鱗さえ見えないその冷たい美貌を、私は凝視することしかできなかった。 …私が、ツナを、好き? そうして私は今、学校帰りにふたりで寄った喫茶店で、昔は大嫌いだったくせに格好つけて無理矢理に飲みだしたブラックコーヒーに口をつけたツナを、両頬杖をついてにらみつけている。 ふと気付いた人にしか分からない、ツナの自然と整った顔。私はもう目を閉じてても当たり前のように思い描ける顔だ。 ツナは中学時代、一途に京子ちゃんを想い続け、私も全力でそれを応援する延長線上で京子ちゃんと仲良くなり、そうしてツナも仲良くなり…かなり良い感じまでいった。 中3の卒業式の日、ツナは京子ちゃんに告白した。私を含め全員が、成功を確信していた、と思ったのに。 並森中からさっさと帰宅していた私の家に、ツナは何かを吹っ切れたような顔でやってきた。そうして一言、振られたよ、と言った。 愕然とする私の前で、当の本人は静かな笑みさえ浮かべて見せた。 『何となく、こうなる気はしてたんだ。オレも踏ん切りがついて、逆にほっとしてる。なまえ、ありがとう。今まで応援してくれて…すごく感謝してるよ』 ツナからは、怖いくらい大人の香がした。私は急に置いてきぼりをくったようにそこに立ち尽くして、ただツナを見つめることしかできなかった。ふつうなら、私がツナを元気づけなきゃいけなかったのに。 あの日から、ツナは急に大人びた。 「…どうしたの?さっきからじっと見て」 唐突にカップをソーサーに戻し、伏せていた目を上げて、ツナの目が私をとらえた。びっくりした私は、明らかに不自然に目をそらしてしまった。 「っな、何でもないっっ!」 「なまえがオレの様子を伺ってるのは、昔から大体、オレに後ろめたい隠し事がある時だよね」 後ろめたい、隠し事…… 私はツナを好き…?どっきりして、私はあわてて首を振る。 「そんなのないっ」 「そんなんじゃだめだよ。昔からなまえは隠しごとがへただし、昔からオレは勘だけはいいんだからさ」 「そんなこと知ってるよ。いつだってかくれんぼはあっという間にツナに見つかっちゃったし」 「そうだったね。なまえの隠れそうなとこって、何となく分かるんだよ。覚えてる?よくクローゼットの裏に隠れてただろ?」 「うん、そうだった。あそこちょっと黴臭いんだよね」 あはは、と私たちは笑い合った。 とたんに、私の胸のもやもやはすべてなくなって、ふわりと軽くなるような錯覚を覚える。 こんな風に話せるのはツナだからだと、本当は私は、前から気付いていた。 私は昔から、ツナの隣が一番安心できることを知っていた。笑って、泣いて、素のままのツナの隣が私の居場所だと、信じていた。だから京子ちゃんとの仲を取り持つこともできた。馬鹿だと思うくらいに、素のままのツナを守りたかったから。 …ああ、私はずっと、ツナが好きだったんだ。 気付いたらなんだかほっとして、話の途中なのに私はほほえんだ。可笑しくさえなって、それがツナにも移ったのか、ツナの昔から変わらない優しさで合わせてくれたのか、ツナも話の途中なのに笑いを押し殺した微笑みを返してくれた。 「またなまえは、いきなり笑ったりして、不気味だよ」 「でもツナは笑い返してくれたでしょ」 「そうかな…でもなまえ、元気出たみたいでよかった」 「うん、ツナのおかげ!ありがとう」 「どういたしまして。出ようか?」 「うん。課題も残ってるもんね」 「な……そういう嫌なことばっかなまえは覚えてるね」 「私はそんな性悪じゃない!!」 今はまだ、軽口を叩き合う仲で。 やっと星を見つけた 「…で、オレに何を隠してるの?」 「っ…何も隠してない…よ」 thanks;rim |