冬は寒い。できれば教室から出るのは最低限にとどめたいほど寒い。 特に、学校では生徒が自由にエアコンのスイッチをいじれるおかげで、いつの間にかエアコン最上限の温度に設定されていることさえある。だから余計に教室は夢の中みたいにあったかくて、代わりに廊下さえ恐ろしく寒く感じてしまう。 冬場のゴミ捨ては、それが面倒くささと相まって誰もやりたくないことナンバーワンになる。もちろん元々人気もなくてふつうなら誰もやりたがらない仕事だ。 ダメツナのオレはパシリだったから、一年の頃は掃除当番の週になるたびに捨てに行かされていた。 二年になって、京子ちゃんと仲良くなった上に同じクラスで、オレはそんな自分がいやになった。 リボーンもいたし、少しは強くなったから(あとから思えばたぶん、獄寺くんの圧力も加わっていたとは思うけど)、オレはようやく初めてゴミ捨てじゃんけんをする権利を勝ち得た。 そして見事に負けた。 ……情けねー…。結局ダメツナじゃん、とかさんざんに言われつつもそのときオレは久しぶりに劣等感なく笑えた。 今までと少し違って、隣にいたのはなまえじゃなくて京子ちゃんだったけど、オレは自然に笑えてた。京子ちゃんもオレのすきなあの太陽の笑みで笑っていて、幸せだったからよく覚えてる。 「情けねーなツナ。京子の前で負けて何へらへらしてんだ」 「なっ、リボーン!!仕方ないだろ、じゃんけんは運なんだから!」 「マフィアは運も味方に付けねーと生き残れねーぞ」 「マフィア…?」 「ちょ、リボーン!!京子ちゃんに何言ってんだよ!!」 いつの間にか現れたリボーンにあわてていたら、ふと教室の入口に人気がさした。 「ツーナ!………あ」 「あ、こんにちはなまえちゃん!」 「あ、こんにちは京子ちゃん。掃除中?」 「ううん、もう終わったよ。これからツナくんがゴミ捨て行くの」 ふふ、と笑う京子ちゃんの奥で、ちょっと困った様子のツナが、やけに私の目に突き刺さった。言いたいことはわかる。きっと京子ちゃんといるときに私という他人は居ちゃいけない。 リボーンがいつもの読めない表情で私を見た。…もしかして私何か変なのだろうか。と思う間に、彼はびっくりするくらいの力でツナを蹴っ飛ばした。不意を食らってツナは吹っ飛び、きれいに並べてあった机をぐしゃぐしゃにするくらいの勢いでぶつかって止まった。 「ぐずぐずしてねーでさっさとゴミ捨てくらい行きやがれ」 「リボーン!いきなり何するんだよ!」 「ツナ大丈夫?死んでない?」 「なまえまで言うの?!死なないよ!もー行ってくる!」 ツナは痛そうに立ち上がると逃げるようにゴミ捨てに向かう。その背を追うように走っていったのは京子ちゃんで、原因は私にある。バッグを忘れていったツナに届けてくれるか頼んでみたのだ。彼女もカバンを持っていたから、もしツナが抜け目なく気付けばふたりは一緒に帰ってくるかもしれない。 これでよし、と。 さっきの埋め合わせはしたつもりで振り返れば、また読めない表情をしたリボーンが立っていた。 「…帰るか」 「え?」 「ツナのやつがいっちょまえにオレを置いてったからな」 「………つまり私がリボーンをツナの家まで送れってこと?」 「ちがうぞ。ボディーガードとして一緒に帰ってやるって言ってんだ」 私は耳を疑って、リボーンをまじまじと見つめた。相変わらず赤ちゃんにしか見えないのに、慣れてくるとスーツや銃がやけに似合う「男」に見えるから不思議だ。 そうして彼は、決してこんなに優しい人ではなかった、はず。さっきだってツナを思い切り蹴飛ばした。 「……どういう風の吹き回しですか?」 「覚えとけ、オレは気まぐれなんだ」 行くぞ、とリボーンは先立って教室を出ていく。逆らうことなど許されない雰囲気に気圧されて、私は焦りながらそのあとを追った。 ゴミ捨てじゃんけん 「ただいまー…リボーン、なんで先帰ったんだよ」 「…お前、京子はどうした」 「どうも何も、学校でゴミ捨てして分かれたけど…痛っ!だから、なんで蹴るんだよ!?」 「……むしゃくしゃしたんだ」 「そんな理由でオレを蹴るなよ!」 thanks;逃避行 |