novel | ナノ

ぴかちゅ?

目の前いっぱいにピカチュウのきょとんってした顔があって、目は覚めたはずなのに思考が停止する。

かわいい黄色のポケモンがきょとんってしたのは最初だけで、私が目覚めたのがわかったらしいピカチュウは、うれしそうににっこり笑って、私のほっぺたにちいさな両手をおいてぐにぐにしてきた。

私がいつも親しみをこめてピカチュウにやってることを、ピカチュウもやり返してくれてるらしい。もっともピカチュウほど、私のほっぺは気持ち良くないはずなんだけど…。


「ぴーかぴーぃ」
「…ピカチュウ、くすぐったいよ」
「っちゃぁ!」


思わず笑った私につられたのか、ピカチュウも笑う。ああぁっ、どうしようかわいすぎるっ!

思わずピカチュウを抱き締めようとして伸ばした手が宙を切って、私は我に返った。


「…なまえ、起きたの」
「…れ、レッドさん…?」


ピカチュウを片手で抱き上げたらしいレッドさんが、いつもと変わりない…正確にいえばいつもかぶってる帽子がない以外は、変わりない様子で私を見下ろしていた。

や、ちがう。変わりないどころか、なんか怒ってる…っていうより、不機嫌?あれ、でも待って。なんでレッドさんが…これ、夢?


「ピカチュウはいるのに、オレはいないと思った?」
「……な」


ちょっと待って待って、あれ?だっていま私寝起きで、髪の毛ぼさぼさだし顔はたぶんひどいし、だってとりあえず寝起きだし、寝起きだし、でも頭ははっきりして…。

ぐるぐる混乱して何もしゃべれなくなった私を不審に思ったのか、唐突に身体の下のベッドがきしんで、レッドさんが私の傍らに座る。


「なまえ」


ギシッ、とベッドが悲鳴を上げた。レッドさんは名前を呼びながら、私の近くに手をついて、上半身をひねるようにしてのぞきこんでくる。

今度はピカチュウの黄色じゃなく、赤いきれいな目が、目の前にあった。私はまばたきをする間もないくらい目を見開いて、頭のなかは真っ白で……こんなこと、前にもあった気がする…。

ぼんやりと回らない頭で考えたとき、もう赤しか見えないような距離で、レッドさんがささやいた。


「…甘い」
「…あま…?」
「なまえの匂い。食べたくなる」


……た…!?

こらえ切れなくなってまばたきをしたせいか、言葉にびっくりしたせいか。それとも、私の覚醒よりも事が起こったのが先だったのかもしれない。


「ピジョーッ!」
「ぴーか!?」


ばさばさっという大きな羽音。びっくりして顔を上げたレッドさんの頭を、つづいてバシッと大きなつばさがたたいたのを、私はローアングルからはっきりととらえてしまった。


「ぴ、ピジョット!」
「ピジョッ!」
「すみませんレッドさん、大丈夫ですか!? 私の躾がなってなくて…。ダメだよピジョット、どうしてレッドさんに襲いかかるの!」
「……いいよ」


狭いポケモンセンターの一室で、ばさばさと大きな羽根を広げるピジョットを叱ろうと起き上がったら、ベッドに座りなおして頭に手をやっていたレッドさんが、ベッドから降りようとした私を引き止めた。


「…でも…」
「…そのピジョット、オス?」
「あ、はい!ちなみにバクフーンもオスです。いまは、ジョーイさんに看てもらってますけど…」
「……」
「レッドさん?」


いつもの無表情じゃなく、すこし眉根を寄せて考え込んだみたいなレッドさんは、けれどちいさく首を振って立ち上がる。


「下で待ってるから」
「あ、はい!すみませんすぐ行きますっ」
「…ピカチュウ」
「ぴか、ちゅう」


ピジョットと何やら話してたピカチュウは、レッドさんに呼ばれて、最後にピジョットにぺこりと礼儀正しくお辞儀をして出ていく。


「ピジョット、二度とレッドさんに襲いかかっちゃダメだからね!」
「…ピージョッ」


ピジョットはしぶしぶみたいだったけど、うなずいてくれたからには守る子だから大丈夫だと思う。

おとなしくなったピジョットをボールにしまって着替えるためにベッドを出たら、ひとりだけなのにぎしりときしんだ。
部屋にひとつだけのベッドなのに、だめになってるみたい。
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