novel | ナノ

しゅわしゅわとセミが鳴き立てている。その間をするりと撫でるようにとおり抜けていく風をさわやかと表したのはだれなんだか、まじめに教科書に向かったことのない私は知らないけれど、とてもぴったりなことばだと思う。

じりじりと焼かれる皮膚には我慢ならないけど、グラウンドのはずれにあるこのベンチにはちょうど木が影を落としてくれるおかげで、そんなにひどくはない。

ひどいのはむしろ、この沈黙の方だ。耐えられない。


「…ねえグリーン」
「あ?」
「あ、じゃなくて。なんかしゃべってよ」
「お前が話せばいいだろ。オレは疲れてんだよ」


どっかの誰かさんが余計なもんぶっかけてくださったおかげでね、と嫌みったらしく答えたグリーンの声には、本音らしく疲労がにじんでいる。あれだけ炎天下を走りまわってたんだから当然といえば当然で、もうしわけなさが増した。

そもそもグリーンの言うとおり、私が水をぶっかけたりしなければ、グリーンはさっさと家に帰ってシャワーでも浴びて、それからサッカー少年の夏休みらしく爆睡することができたかもしれないのに。


「…ごめんね、グリーン」
「はあ? 何だよ急に」
「だって、せっかくのサッカー少年の夏休みを奪っちゃって」
「……オレはお前の思考回路が分からねーよ…」


なんだサッカー少年の夏休みって、とグリーンが笑う。へらりとちからないそれが、ますます私の罪悪感をあおった。

反射してまぶしいくらいのグラウンドに、午後から練習を始めるらしい野球部がぞろぞろ入ってくる。見てるこっちまで暑苦しくなってくるユニフォームの集団の幾人かがこちらを指さして笑いだして、それにぴくりと反応したとなりが大声を上げた。


「笑ってんなよてめーら!」
「グリーン、よかったなあ!」
「だー、うっせーな!」


とうとうぱっとベンチを立ちあがったグリーンの背中が、灼熱を受けながらも風を引きつれてどんどん小さくなっていく。あわてて後を追う前にふり返ったら、青いベンチにはふたつのならんだ水あとがついていて、それがなんだかやけにおかしかった。

おわびに、帰りにアイスでもおごろうかな。


20110621~20110702
灼熱の栄華/ace

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