ベッドに転がって、真っ赤に焼けつきそうなくらい照らされる天井を見つめた。 私だってこれまで、むだに生きてきたつもりはなかった。楽しいことばっかりじゃなかったし、後悔だってたくさんしたけれど、だてに17年間も生きてきたつもりはなくて、いろんなこと、それなりにわかってたつもりだったのに。 カントーにいたころはそれなりに友達だっていた。だからあれっぽっちのちいさな町で、すべてを見た気になってたのかもしれない。 もっと早く気づけたら良かった…ああほら、また後悔。私はつまり、私自身のことを勘ちがいしてただけ。それを認めたくなかっただけなんだ…。 「なまえ!」 「おっ、お母さん!帰ってきてたの!?」 「帰ってきてたの、じゃないわよ!さっきからずっと呼んでるのに返事もしないじゃない」 とつぜん部屋のとびらがひらいたと思ったら、ずかずかと入ってきたのは入れ違いになってたお母さんだった。 びっくりしすぎて上半身を起こした私は、その後ろからタタッと走ってきたヒトカゲのタックルによって、また背中からベッドにダイブしてしまう。 なんだかやけに甘えてくるヒトカゲにちょっと押され気味になりつつあたまを撫でていたら、いかにもパート帰りの格好をしたままのお母さんが、あきれたように腕を組んだ。 「あんたね、何があったか知らないけど、いつまで悲劇のヒロインモードやってるの。あんたがあまりにふぬけてるってヒトカゲちゃんが心配して、私を迎えに来たんだからね」 「…えっ?」 迎えに、って…お母さんのつとめてるスーパーまで?だってヒトカゲ、ひとりであの動く歩道…。 目を丸くして私の上にのっているヒトカゲを見たけど、ヒトカゲはかげ?とうれしそうにしっぽをゆらゆらさせながら、首をかしげただけだった。 まったく、こっちもあんたが病気なのかと思ってあせったわよ、とぶつぶつ文句を言いながら、お母さんは私の部屋からつながるベランダで、洗濯物を取り込みはじめる。 「ほら、あんたも寝てるひまがあったら手伝いなさい」 「あ…うん。ごめんなさい」 「かげっ!」 身体を起こしたら背中に張りついてきた温もりは、数時間まえの握手みたいに、暑さを感じない類のものなのかもしれなかった。 「…重くなったね、ヒトカゲ」 「かーげかげ!」 「そりゃそうでしょ。私にすれば、あんただって大きくなったんだからねぇ。もう17か…」 まだたまごから孵ったばかりのころみたいに、背中にヒトカゲをおんぶしたままベランダに出た。さっきまで天井にゆらめいていたひかりは潮のようにひいていく。 しみじみしながらお母さんがつぶやいたことばは、じゃらじゃらと鳴る物干しの音をくぐりぬけて、不思議とよく聞こえた。 110709
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