「あり得ない、あり得ないあり得ない!」 「ちょっと…オードリー、声が大きい」 「だって…ああもう、なまえちゃん!どこをどう誤解したら、私とトオイがそういう関係になるの!?ほんとにもう…あり得ないよっ!」 管理塔のショッピングモールは、平日にもかかわらず客入りがよかった。 品の良いカフェの一角でヒステリックな声をあげるオードリーちゃんを、キャサリンちゃんが低くたしなめる。それでも変わらずつめよられ、私はぐっとつまったことばを逃がす術をさがして視線を泳がせた。 決して空いてはいないから、何ごとかと送られる視線が恥ずかしい…。となりではヒトカゲが、もくもくとパフェを口に運んでいる。 「…だって、オードリーちゃん」 「私がなに?」 「あのとき……」 逃げられなくてこぼれたことばもこれ以上は続かなかったけど、だからといってオードリーちゃんを見ることもできずに、私は結局、視線を落とした。手がひざの上でふるえてる。 さっきとは正反対の沈黙が、痛いくらい心臓につきささるように感じるのはきっと、気のせいじゃない。ヒトカゲのスプーンが止まって、心配そうな緑のひとみが向けられるのがわかるけれど、顔をあげることができなくて。 「……なるほど、ね」 そんなひどい状況を破ったのは、キャサリンちゃんだった。テーブルの上でうずまくシャンソンを吹きとばすように、ふうっとため息をおとす。 顔を上げた私は、オードリーちゃんを見つめるキャサリンちゃんの目の、強いつよいひかりにどきりとした。 だけど双子のひとみに、オードリーちゃんは負けじと応戦する。 「…なに、私が悪いっていうの?」 「うん」 決着は1秒でついた。 あまりの即答ぶりに、私もオードリーちゃんも、ぽかんとキャサリンちゃんの厳しい表情を見つめるしかなかった。 ふたりぶんの視線を受けても、キャサリンちゃんのひとみはちっともゆらがない。ひとりで、すべてを知ってるみたいだった。 「オードリー、あなたはいつも鈍すぎるの。だから誤解を招くんだよ」 「鈍いって、何のこと?」 「あのね。あのとき手を引っぱったでしょ?トオイの手を」 なまえちゃんが気にしているのはそこだってこと。 ついに、キャサリンちゃんが私には言えない核心をついた。 面食らったような顔をしたオードリーちゃんの顔がみるみるうちに曇っていき、ぷつんと糸が切れたように意気消沈するのを見ながら、私もびっくりして硬直する。 いちどふわりとテーブルから舞い上がっていったけむるようなシャンソンが、また私たちの上に降り積もった。 110709
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