するりと風がふいて、私たちの間を通りぬけていった。 私の返事をきいたオードリーちゃんが眉根をよせる。うしろに見える噴水の、青い香りがした。 「…なに、それ。それがそんなに重要なこと?」 「ちょっと、オードリー」 「キャサリンはだまってて。ねえなまえちゃん、いま私はなまえちゃんのきもちを聞いてるんだよ。どうして私たちのはなしになるの?」 ぴしゃりとはねのけられたキャサリンちゃんの眉がつり上がるのがみえたけれど、それよりもオードリーちゃんのことばがするどく、私のからだをつき刺すようだった。つよいひとみを見ていられなくてうつむいたら、すらりとした華奢な足が目に入った。 ビビットなヒールが脳裏をずきずきと刺激する。 「オードリー、あなたは何もわかってない!」 「黙っててっていったでしょ?」 「いやです、私はだまらない。だってオードリーはなまえちゃんのきもち、ぜんっぜんわかってないよ!」 「……え?」 キャサリンちゃんが大声をあげたのを見たのははじめてだった。おもわず顔をあげて、ぽかんと双子の片われを見つめるオードリーちゃんに対峙して、ぎゅっとこぶしを握りしめるキャサリンちゃんの背なかを見つめる。 はあっとおおきく息をはいたキャサリンちゃんは、それでいくらか落ちついたらしく、いつもの彼女に戻った。うつむいて、ゆっくりとことばを絞りだす。 キャサリンちゃんのくちびるから飛びだして向かった先は、びっくりすることに私だった。 「なまえちゃん、ちょっと長くなるけど、私が質問に答えるね」 まず単刀直入に言うけど、私たちはトオイとは幼なじみのようなもので、そういう感情を持ったことはおたがいに一度もないよ。 ふわりと、あたたかいブランケットをかけられたようだった。くるりとふり返ってこちらを見たキャサリンちゃんはにっこり笑って、それからこちらに手を差しだした。 「ここは暑いし、カフェにでも入ってゆっくり話そ。ね、オードリーも」 「キャサリン…、私、」 「いいからいいから!仲直りしてね、ふたりとも」 にこにこ笑ってさんにんで手をつないだキャサリンちゃんを見て、座ったまましずかに成りゆきを見まもっていたらしいヒトカゲが大あわてで私のとなりにやってきて、私の空いた手をぎゅっとつかんだ。 その様子を見て、こんどは私たちも顔を見あわせて、笑う。ずっとこころに引っかかってとれなかった重石が、奥底にしずむでもなくすっかりとけ消えていることに気がついた。 気候は暑いくらいなのに、つないだぬくもりはぜんぜん不快じゃない。 110709
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