novel | ナノ

いつのまにか薄暗くなっていた公園のあちこちから、ポケモンたちが楽しそうに遊んでいる声が聞こえてくる。

はじめてのバトルですっかりのどが渇いてしまった私たちを水道まで案内してくれる道すがら、リュウさんはポケモンの特性についてていねいに教えてくれた。

ポケモンバトルに勝つのはきっとものすごく大変なんだろうな。だからこそ、勝った喜びは計り知れないんだろうけれど。

ぼんやりとそんなことを思いながら聞いていたら、リュウさんがふとことばを途切らせてふり返った。

つられてふり返れば、すっかり仲良くなったヒトカゲとバシャーモがお喋りしながらついてくるのが目に入った。

歩みは緩めないまま、リュウさんは笑ってささやいた。あちこちで光りはじめた街灯のせいか、なぜだかリュウさんがすこし子どもっぽく見える。


「ずいぶん打ち解けたようだね」
「はい。きっとバシャーモさんがやさしいからです」
「ああ…たしかにあいつは優しいよ」


納得したようにうなずくリュウさんの声色はやさしくて、自慢とかではなく、心からパートナーを褒め称えているのがわかる。

失礼かもしれないけれどそれがなんだか可愛らしくて、思わず口もとがゆるんでしまった。

それに気づいたリュウさんが、今度はむっとしたようにくちびるを引き結ぶ。


「僕が何かおかしいことを言ったかな」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど」
「じゃあ何が…」


憮然としていたリュウさんが突然ぶつりとことばを切って、さすがに失礼すぎたかなと一瞬、どきりとした。

空気が凍りつく。

ぐいっと痛いくらい乱暴に腕を引かれるのと同時に、リュウさんがするどくパートナーを呼ぶ声がした。


「バシャーモ、気をつけろ」
「しゃも」


ぐるりと真っ暗な世界が反転したようなおかしな感覚がして、私は二、三度まばたいた。私の前には赤いほのお三つがまばゆくゆれている。

私とリュウさんを背後にかばうように立ったバシャーモは、ヒトカゲを抱えていた。


「…ヒトカゲ!」
「しっ、静かに!」


無意識に呼びかけたとたん、手首に痛みがはしってびっくりした。思わず振り払おうとしたらよけいにきつくなるそれは、リュウさんの手だったことにようやく気づく。

きつくにぎられてひっぱられた手首が痛いのに、声が出せなかった。さっきまで聞こえていたはずの楽しげな声はかき消えて、ただはり詰めた緊張とバシャーモ越しの茂みしかみえない。

何か来る。

息をつめる私たちの前から、がさがさっとはげしく草木をわける音が近づいてきた。

110517
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