novel | ナノ

ミルキーブルーの空に、くるくると回る赤い傘。コントラストはなかなかきれいだけどへんなことにちがいはないから、とんでくる視線が痛い。

まだ距離はあるけれど見晴らしのいい一本道に出たら、もう待ち合わせ場所に立つトオイくんが見えた。足元で赤と青のちいさな影がぴょんぴょん跳ねている。


「…おはようなまえ。ヒトカゲ、いい傘だね」
「おはよう…」
「かーげっ」


トオイくんは親切にもヒトカゲの傘にいやな顔ひとつしなかった。トレーナーの私がいっしょに歩くのが恥ずかしいくらいなのに。

プラスルとマイナンがうれしそうにヒトカゲの傘に両側から入り込む。きゃっきゃと騒ぎだしたのを微笑みとともにたしかめてから、トオイくんは私を見た。


「なまえ、来てくれてありがとう」


たしかに呼ばれたのは事実だけど、そんなふうに言われると返事に困る。

私がまごついたのを見て取って、トオイくんはふと何やら楽しそうに笑った。


「え…な、なに?」
「ん?ううん、なんでもないよ」
「何かついてる?」
「ちがうってば、大丈夫、可愛いから。行こう、こっちだよ」


さらっと飛び出したとんでもないことばに貫かれた私に気づかずに歩きだすトオイくんを、傘下から追い掛ける影がみっつ。

ミルキーブルーの空の下で、トオイくん、赤い傘、私の奇妙な珍道中。だけどさっきとちがって視線が痛くないのはきっと、プラスルとマイナンと、トオイくんがいっしょだから。ポケモンたちは傘を通してじゃれあっているだけに見えるし、堂々としているトオイくんには、奇妙な視線も向けられない。


「そういえば先日、父さんがお邪魔したみたいで…」


最初の曲がり角につく前に振り返ったトオイくんは、ポケモンたちに先に行かせて私のとなりへならんだ。


「あっ、うん。大したおもてなしもできなかったけど…」
「そんなことないと思うよ。すごく喜んでたし…ありがとう」


はにかんだように笑うトオイくんをはじめて見たはずなのに、やっぱりロンド博士ととても似ている。

なんだか大人みたいな、他人行儀でおきまりの会話を交わしてから私たちは笑った。なんだかやけにおかしくて、笑いがお腹の底からぷくぷくとのぼってくる。

110307
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